米Oracleの最高経営責任者(CEO)であるLarry EllisonがWim CoekaertsにLinuxベースのインターネット家電の企画を依頼したとき、Coekaertsはたった2週間で企画を練り上げてEllisonのもとにやってきた。そして自らその新しい仕事を勝ち取った。
Coekaertsは一見おだやかなベルギー人である。EllisonはCoekaertsのフィードバックの早さに感動し、この人物にならOracleのLinux戦略の検討を任せてもよいと確信したのである。
Linuxは数年前からすでに重要と考えられていたが、大企業が自社のデータセンターでLinuxの導入を進めるなか、現在はさらにその重要性が増している。
Oracleはそれまで自社でソースコードをいじれるOSを持っていなかった。Linuxの共同開発プロセスによって、外部の業者が特別な要件に対応するのを待たずにLinuxをベースにしたアプリケーションの試作品を作れるようになったのだ。
しかしLinuxは同時にOracleに1つの課題を突きつける。過去数年間のIBMと同様、OracleもLinux対応を促進することで明確に自社利益を追求しているが、一方で同社は対外的なバランスをうまく保ちながら、オープンソース界やLinux開発者であるLinus Torvaldsグループと良好な関係を維持していかねばならないのだ。
Oracle内でMr. Linuxのニックネームで知られるWim Coekaertsは最近のCNET News.comとのインタビューで、同社のLinux戦略について語った。
――OracleのLinuxグループはアプリケーション開発グループとは別組織となっていますが、これは相互の影響を避けるためですか。
いえ、今でも相互に大きな影響を与え合っています。ただ、私たちは1つの製品部門の一部にはなりたくないのです。Oracleの製品にはLinuxが必要で、だからこそ私たちのグループが皆にアドバイスをします。しかし、私たちはOracleの製品開発陣の中に入り込みたくないのです。全ての開発プロジェクトはソースコードを公開しない形で進められますが、Linuxサイドでの私たち仕事は全てがオープンソースです。私たちはソースを公開しないバイナリドライバなど持ちたくないのです。
――矛盾は生じませんか。
よくできた組織形態だと思っています。私たちはSuSEやRed HatやUnited Linuxに全てのものを使って欲しいと考えているのです。そうすれば次のバージョンがOracleにとってより使いやすいものとなるからです。
――社内にLinux以外のOSのカーネルを開発するグループはありますか。
Oracleは昔からソースコードを持たずに他社と共同して働く形をとってきました。しかしLinuxの利点は自分たちでOSとOracle製品のプロトタイプ開発を並行して進められることです。昔は「こういった機能を開発したいのでOS側にもこれが必要だ」とOSベンダーの担当者に伝え、担当者がそれを自社に持ち帰り、会議を開いてかかる時間や開発資源の有無などを話しあう、という段取りを踏んだものです。そのために開発が遅れたのです。
Linuxでは、データベースグループの誰かがちょっとやってきて動作確認をする、ということができます。まだ動作が保証されていなくて確認に数週間かかるものであっても、今あるものを使ってテストができます。やりたいことができる、これがLinuxの大きな優位性です。
――Linuxユーザーの顧客がOracleの製品でトラブルにあった場合はどうなるのですか。誰が対応するのですか。
その場合はOracleのサポートデスクに電話をかければよいのです。そうすれば、OSの不具合かどうかを私たちが判断します。もし大口ユーザーの夜間バッチジョブの最中にカーネルが繰り返しクラッシュしても、私のグループはポケベルを携帯していますので、バグの修正や迂回措置を施すことができます。
――そのようなケースが過去に?
幸いなことに、まだありません。
――それはOSに関する専門技術もOracleのコアコンピタンスの1つになることを意味するのでしょうか。カーネル開発者がOracleのビジネスに不可欠となることを本当に望んでいるのですか。
いまLinuxに関する問題を抱えている顧客がOracleにサポートを求めてきたとします。それが簡単な問題であれば私たちにも解決できます。もし、致命的とは思えないレベルのOSのバグがあった場合には、OracleからRed Hatにその問題を転送します。私たちはLinuxのディストリビューターではないので、単にお客様が確実に安心感を享受できるようにしたいだけなのです。しかし、もし致命的な問題が発生した場合には、それを転送している時間はありません。私たちが修正し、修正完了後にその結果をRed Hatに連絡します。
――大手の顧客が相手であるときにもうまくいきますか。Microsoftは、夜間に問題が発生しても組織的なサポート体制でLinuxより優れた対応ができると主張しています。Linuxの対応はMicrosoftよりも複雑である印象を受けます。
そうは思いませんね。顧客が必要としているのは1本化された窓口です。先ほどRed Hatにも連絡をすると言いましたが、それはOracle社内でのことです。サポートデスクがお客様に「これはOracleには関係ない不具合なので他をあたってくれ」と言うわけではありません。
――OracleでLinux関連の仕事をしている従業員は何人ですか。
Linuxのカーネル関連で実際に開発を行っているのは1000人程度です。このような体制になってからしばらくたっていますが、体制に関してはあまり公表してきませんでした。LinuxはUnixと同じですから、社内にUnix技術を持つ人材が多くいれば、体制を整えるのは非常に簡単で時間もさほどかかりません。
――今までの他のOSに比べてLinuxは開発のスピードが速いと多くの人が言っています。これはオープンな開発プロセスという本質的特徴に由来すると言う人もいれば、Linuxはすでに誰かがならした土地をまた掘り返しているだけだと言う人もいます。これらの意見に賛成ですか。Linuxは他のOSよりも速く成長しているのでしょうか。
ええ、Linuxは速いスピードで成長していますね。
――他と比べてどのくらい?
ありがたいことに、いくつもの会社がLinuxに取り組んでいます。相関性についてはRed Hatのカーネルチームが力を入れており、SuSEのチームは細かな作業に取り組んでいます。ディストリビューター以外にも特徴的な機能の開発に携わっている人々がいます。つまり、巨大な開発プロセスが並行して動いているのです。中には他のOSが過去にやってきたことをもとに成長し開発された部分もあります。しかし他のOSがやらなかったことに焦点を当てたプロジェクトもいくつもあります。これらはまさにLinuxが初めて実現しようとしているプロジェクトなのです。
――Linuxは既存のものを再生産しているに過ぎないという批判があります。オープンソース界は単に既存のテクノロジーのクローンを作るのがうまいだけだと。これは正しい批判だと思いますか。Linuxコミュニティは何か新しいものを創造しているのでしょうか。
Linuxコミュニティは創造的な活動もしています。Alan Cox(編集者注:米Red Hatの社員でLinus Torvaldsを補佐する主要人物の一人)はLinux関係者がRFC(Request for Comments)を書き標準化提案をするように努力を続けています。他のOSにはないLinux特有の内容があるからです。確かに、労せずに実現した分野もありましたが、新しいものもたくさん生まれています。
――標準化のプロセスに再考の必要性はありませんか。新しいカーネルを発表するためにはLinus Torvaldsの承認が必要とのことですが、それが障害にはなりませんか。
特にそんなことはありません。ディストリビューターのやり方を見れば分かります。もし多少の遅れが生じても、ディストリビューターは断片的にパッチを配布しメインカーネルへの組み込みに間に合わせることができます。Linusがあのような冷静な人物であることは幸運なことです。彼の決断は技術に基づいたもので、政治的なものではありません。相手企業の好き嫌いなどは関係ない。つまり、Linusの考えは合理的でわかりやすいものなのです。
――しかし、Linusもひとりの人間です。ひとりの人間の判断が物事を左右することになりますね。
大抵の場合はそうですが、その判断はオープンです。Linusは「私のやり方に不満があれば、それはそれでかまわない、不満のある点を変更したり、カーネルに改良を加えるのは大歓迎だ」という意見をいつも表明してきています。だから、これまでも問題はありませんでしたし、今後も問題になるとは思いません。ひとりの冷静な人間が監督することは良いことです。
――Linusの学習曲線は追いついていますか。数年前、Linusはマルチプロセシングに関心を持つ人なんていないと言っていました。今ではLinusもそれが現実であることに気づいていますよね。
もちろん気付いていますよ。彼は驚くほど頭のいい人物ですから。
――Linusと一番意見が合わない点はなんですか。
意見が合わない点は全くありません。
――Red Hatは事実上唯一のLinuxサーバのディストリビューターになると思いますか。
米国における大手はRed Hatですが、ヨーロッパではSuSEが大手です。1社に絞ることはできません。
――Red HatとDell Computerは8-wayマシンよりも大きなものはニッチマーケットに終わると主張しています。Linuxで大きなデータベースを構築するためにはクラスタ化されたデータベースが最適だという確信はありますか。
それはLinuxに限りません。
――しかし、拡張性のないLinuxでは特にそう言えませんか。Solaris向け64プロセッサを搭載したサーバは買うことができます。しかし、例えばDell Computerが8-wayサーバより大きなものが必要となることは決してないと主張したとしても、ただ単にDellは8-way以上の大きさのサーバを販売できないからそんな主張をするのかもしれません。テクノロジーの限界とマーケティングを見分けるのは難しいのです。
しかし、IntelのCPUは本当に速いというのは重要なポイントです。 いまIntelは2〜3GHzのCPUを市場に出しています。私たちが制約を受けるとしたら、それはメモリです。12ギガのメモリと2つのCPUを搭載したボックスが1つあればたくさんの命令を走らせることができます。つまり、16-wayのSunのマシンの代わりに16-wayのIntelは必要ない、8-wayで十分まかなえる可能性があるのです。
――違う聞き方をさせてください。ここに作業負荷の高い仕事があるとします。9i RAC (Real Application Clusters)をいくつかの2-wayまたは4-wayのボックスと合わせて使えば、巨大な鉄の箱を買うのと同じ仕事ができるのでしょうか。
多くのケースでは、そうなると思います。もちろん、例外もあります。
――OracleはLinuxから何を得ようとしているのですか。
私たちの顧客はLinuxを欲しがっています。Linuxの中立性が人々に認められているからです。また、Linuxは競合他社が提供しているサービスに私たちが参入するチャンスも与えてくれます。プロトタイプを作ることもできるし、安いハードウェアでもよく作動します。また、Linuxはコスト削減を大幅に促進します。最高で20%もコストを下げることができ、最終的には利益改善につなげることができるでしょう。
――他のOS製品と比べ、Linux製品の販売に収益上の差はありますか。
ライセンスがあれば欲しいものをどれでもダウンロードできるという点では、昔から全てのOSについて同じです。
――それはOracleにとってIntelのサーバへの関心を高める原因となっているのでしょうか。
答えはYesだと思います。全てはコスト次第です。私たちはやっと安いハードウェアで同じことができる段階に到達しました。だからLinuxがあらゆるところで見受けられるようになったのです。
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