今月上旬、フロリダ州オーランドにて開催されたBEA SystemsのeWorld ユーザーカンファレンスにおいて、人々の注目はAlfred Chuang氏に集まった。
Javaビジネスソフトウェアメーカーである同社の最高経営責任者Chuang氏は、現在難しい舵取りを迫られている。主力商品のWebLogicシリーズを中心とするアプリケーションサーバだけでなく、あらゆる目的に応えるソフトウェアインフラを提供する企業として再出発を図るつもりなのだ。
この船出の前途は決して洋々というわけではない。製品ポートフォリオの拡充で目標到達を試みるBEAだが、同社の前には先行する統合ソフトウェア企業のほか、IBMやOracleといった競合他社が厳しく立ちはだかっている。もう一方で、オープンソースのアプリケーションサーバであるJBossやTomcatなども急激に普及しはじめている。
BEAは今後、Javaプログラミングの負荷軽減、開発と連動したアプリケーションの統合といった分野に向けて注力していく考えだ。BEAにおける最初の開発者という顔を持つChuang氏は、開発者の信頼を勝ち取ることが成功の鍵だと痛感している。
「私は最高経営責任者ですが、同時に皆さんと同じ開発者の一人なんです」。Chuang氏はeWorldに足を運んだ開発者たちにこう切り出した。「皆さんが味わってきたご苦労は分かっているつもりです」
eWorldの壇上でそう呼びかける数日前、Chuang氏はCNET News.comの取材で、同社の技術、今後の方針、そしてビジネス戦略について、次のように語ってくれた。
――アナリストは、BEAの不安材料として御社の戦略に潜むリスクを指摘しています。それについて、どのようにお考えですか。
現在、世界全体が不安感に包まれていると思います。開戦に対する懸念が高まり、株式市場の動向も極めて不安定です。BEAの安定性を論じる以前に、今はマーケット全体が迷走状態に陥っていると思います。
――General Electricの一部門がWebLogicの代わりにJBossを採用した、という報道が御社の株価の下落要因となりました。オープンソースのアプリケーションサーバがBEAにもたらす影響についてどう思われますか。
信じてもらえるかどうか分かりませんが、私はオープンソースのアプリケーションサーバの大変な支持者なのです。市場にあらゆる角度からアプリケーションサーバを浸透させることは当社にとって非常に重要だと考えているためです。私はオープンソースが、J2EE (Java 2 Enterprise Edition)がデファクトスタンダードであることの真価および将来性を顧客に認知してもらう上で役立っていると思います。
けれども、皆さんにはもう少し冷静になっていただきたいと思っています。ある経済アナリストのレポートによると、何百万ものユーザーがJBossをダウンロードしているといいます。しかし、皆さんご存知のとおり、それ以上にもっと多くのユーザーがWebLogicをダウンロードしているのです。ここで正確なユーザー数を挙げることはあまり意味がありません。ですが、(JBossで)サポートにお金を支払った顧客はわずか75ユーザーだけです。BEAでは1万4000件もの顧客がサポートを得るための有料サービスを利用しています。オープンソースが当社の市場を侵食していると言われますが、そうした発言はいささか行き過ぎかと思います。
――オープンソースが与える影響とは何でしょうか。
当社の顧客にとって、テクノロジーを買い求めるコストとはすなわち、安心を買うコストなのです。誰でも参加できるプログラム開発環境では、開発者が出たり入ったりで、いつの間にかいなくなることもあります。それではやはり安心感に欠けますよね。きちんと一貫した視点でシステムができ上がるという保証はどこにもないのですから。
Linux(オープンソースのOS)はどうでしょうか。Linuxは市場で現在大変な成功を収めています。しかし、Unixが登場してから企業がオープンソース技術を手に入れるまで32年かかりました。しかもそのオープンソースとは、Unix本来の目的を実現するものだったのです。つまり、Linuxは、(Unixを)原点に立ち返らせるものだったわけです。
もうひとつ、Linux上で直接プログラム開発を行う人はいません。誰も、OSのAPI(application programming interfaces)群をアプリケーションプログラムの開発に使わないのです。このOSを使うには非常に多くの制約があります。そのため、Linuxを提供する限られたベンダーだけがこのOSをサポートすることが可能となり、ユーザーがこれらの技術を実装するには様々な制限のある環境に身を置かなくてはならないのです。アプリケーションサーバの世界では直接プログラム開発を行っていくので、こうした環境は非常にリスクが高いといえます。
――こうしたことはBEAにどういった影響があるのでしょう。
これらのオープンソース技術の目指す市場と切り離して議論する必要があると思います。当社の事業の柱はミッションクリティカルなアプリケーションの開発です。つまり、エンタープライズの基幹システムが対象です。一方、オープンソース技術は(先述したようにJ2EEの)裾野の拡大に役立っています。どちらも必要不可欠なものですし、当社はそれを成功させるためにあらゆる手立てを尽くすつもりです。それにしても、オープンソース技術の登場をやたらと過剰反応する人がいますね。例えて言うならば、真夜中にBMWよりいい車を作ると思い立った人のようなものです。ゼロから車を作り上げ、3台ほど同じものを複製して、「明日にもBMWを倒す」と言っている。でも、そんなことできるはずがありません。
――BEAには経営の多角化が必要だという経済アナリストに対するご意見は?
当社は大変良好な経営改革を実現したと思っています。直近の四半期における業績では、わずか2.5四半期間に販売した統合製品のライセンス料金で2000万ドルの売上が出ています。これは我々の大きな強みです。サービスなどを含めると、この事業だけで多くのソフトウェア企業よりも売上高が上回っています。
製品ラインナップの見直しは、Microsoft以上に成功を収めているとはっきり申し上げます。Microsoftでは概して、売上の多くをWindowsとOfficeに依存しています。そのほかの多くの製品群は儲かっていません。それに対して、当社の製品群はきちんと利益に結びついています。
――BEAはビジネスインテグレーションを強調しています。ですが、OracleやIBMなど、システムインテグレーションとアプリケーションサーバをひとまとめにして売り込んでいる先行企業が存在します。どの部分で彼らと差別化を図りたいと思っていますか。
彼らの製品群というのは、過去いろいろな時代に他社から買収したものや、独自開発したものの寄せ集めです。例えばIBMには統合ミドルウェアのCrossWorldsという製品がありますが、これも彼らが買収したものです。4つか5つか、果たしてどれくらいか分かりませんが、異なった時期に作られた製品が統合ソリューションとしていくつも売られています。その結果、様々な古い統合技術のサポートがどうしても必要になっています。
――WebLogic Workshop(プログラミングツール)を昨年ご紹介されたときは、最終的に第一級のプログラマー向けではなく、Visual Basicを扱える程度のスキルを持った開発者向けである点をアピールされていました。使いやすさの面で狙いどおりのユーザー層を獲得できましたか。
私の考えでは、市場におけるすべての製品のなかで最も良い結果を出せたと思います。これにはだいぶ勇気づけられました。しかし今後は、企業の開発陣の大半がメインフレーム用のアセンブリ言語やCOBOLといった言語を使っているという現状に目を向けなければなりません。これらの言語はとうにお蔵入りになったと思われていましたが、まだ大手を振って歩いているのです。
これからの世の中の推移を考えると、武者震いがする思いです。大規模なシステム構築や、企業における分散コンピューティングの導入などが当面の課題に挙げられます。
――御社の今後の展望を教えてください。
今後2〜3年間は、商品・サービスの継続的な機能拡張や充実を図っていくことに焦点を絞っています。
――さらにその後は?
長期的には、企業が水平分業型のアプリケーションシステムを構築するのを支援したり、ハードウェアの性能を劇的に向上させるソフトウェアの選定をはじめ、柔軟性やシステム監査機能などの面でサポートを行っていくつもりです。商品・サービスの拡充に努めているのは、あくまでもエンドユーザーがアプリケーションを最大限に活用できるようにするためです。究極的にエンタープライズアプリケーションが行き着くところはそこだと思っています。
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