NTTは12日、人の皮膚の表面などに交流電気信号を流してデータ通信を行う「人体表面電界通信システム」(人体通信)を4月にも商用化する方針を明らかにした。同システムの実用化は世界でも初めてという。個人認識用のICカードをポケットなどに入れたままドアノブを触るだけでセキュリティー認証でき、オフィス業務や日常生活の利便性向上が期待できる。
子会社のNTTエレクトロニクスがシステムの送受信機を生産、販売を開始する。
オフィス機器メーカーや建設業界と協業することで、入退室管理などのセキュリティー分野での採用を図り、3年後に売上高200億〜300億円規模の事業に育てることを目指す。
導入が見込まれる入退室管理システムでは、従来はカードをカードリーダーにかざす必要があったが、新システムでは、カードをポケットやかばんに入れておけば、記録データが人体などの表面を伝わって受信機に送られ、開錠される仕組み。
新システムの実用化に際し、NTTは、送信機が発する電気信号を高効率で人体表面を介して送り、高感度で安定的に受信できる技術を開発した。
電気信号は極めて微弱なため、人体への影響はないという。これまでも体内に微弱な電流を流してデータを送るシステムは開発されていたが、カードを人体にじかに接触させる必要があるなど用途が限られ、普及しなかった。
また、NTTは来春、同様の通信システムを利用したパソコンのLAN(構内情報通信網)接続用データ通信カードを発売する予定。物質表面を流れる電界を使ってデータを送るため、パソコンを机上に置くだけで通信可能となり、無線LANのようなデータ傍受の恐れがなく、煩雑な有線ケーブルも不要になる。
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■セキュリティー需要に期待
NTTは、「人体通信」利用の新システムについて、当初、セキュリティー分野での導入を期待している。情報漏洩(ろうえい)防止を目的とした企業需要が一段と拡大するという判断だ。
多くの企業では、部外者が顧客データなどを勝手に持ち出すのを防ぐため、個人認証を受けないと守秘対象の情報を印刷できない仕組みを取り入れ始めている。
新システムを使ったNTTの試作機では、印刷のたびにIDカードをかざす必要はなく一手間かけずに作業を完了でき、情報管理の簡易化にも役立つ。
また、机の引き出しやキャビネットにいちいち鍵を掛けなくても、IDカードを所持している本人が触るだけで開けられるオフィス家具も試作。オフィスの床にカードリーダーを埋めれば、社員のだれがどこにいるかも把握できるという。
将来的には、ビルの入退室管理や駅の改札ゲートの足元にリーダーを埋めることで、通過するだけで簡単に認証できるシステムも普及させたい計画。電子チケットや流通分野で導入が始まっている無線ICタグとともに、一般利用者が通信ネットワークを感じることなく、瞬時に情報をやりとりできる時代が到来しそうだ。
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