オープンソースライセンスとして広く利用されているGPL(General Public License)は、日本の法律上、契約に当たるのだろうか。それともプログラム製作者が一方的に著作権を行使しないと宣言しただけの話なのだろうか。東京平河法律事務所の小倉秀夫氏は12月5日、オープンソースに関するカンファレンス「Open Source Way 2003」において、この問題について解説した。
GPLは、リチャード・ストールマン氏が1980年代に考案したライセンス供与条件で、全ての人にソースコードの修正、配布を認めたもの。ただし、修正版を配布する際には修正内容を公開することが条件となっている。現在はLinuxカーネルをはじめ、多くのオープンソースプロジェクトに採用されている。
小倉氏によると、GPLは契約なのか、プログラム製作者が自分の著作権を行使しないという宣言(これを不行使宣言という)なのかによって、いくつかの点で法律を適用する際に違いがでてくるという。具体的には派生物(derivative work)の範囲を超えた関連作品の扱いや、ソースコードの引き渡し義務の有無、GPLが定める無保証条項の効力といった点で、違いが生まれるという。
GPLは契約として成立しうるか
東京平河法律事務所の小倉秀夫氏 | |
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小倉氏はまず、GPLが契約として成立しうるのかという点について検証した。GPL第5条では、「プログラムの改変や配布を行った場合、GPLを受け入れたことを意味する」という条項がある。しかし、契約というのは通常、利用者が契約書にサインするといった承諾行為があって成立するとされている。
小倉氏はこの点について、民法526条の条項から契約として成り立つだろうと語る。526条には、承諾の意思表示と認められる事実があれば契約が成立するという項目がある。つまり、契約によって得られる権利を実行した人は承諾の意思を示したと考えられるのだ。したがってプログラムの改変や配布を行った人は承諾の意志を示したと判断でき、GPLは契約と見てよいと考えられるという。
GPLの「無保証」は法律上有効か
小倉氏はGPLが掲げる無保証条項について、GPLが契約と判断された場合と、不行使宣言である場合の違いについて紹介した。GPL第11条には、「このプログラムは無償でライセンスされるため、適用法の範囲内でプログラムに関する保証はない」と記載されている。これが免責条項として成立するのか、という問題だ。
GPLがもし不行使宣言にすぎないとしたら、これは著作権者の一方的な宣言であり、利用者に損害賠償権を行使するなと言うことはできない。一方、GPLが契約であれば、利用者がプログラムを変更、翻案、配布した際に契約が成立したと考えられる。したがって、免責に関しても合意がなされたものと判断されるという。
ただし、利用者がプログラムを入手して使用しただけの場合、話は異なる。プログラムの使用はライセンスの範囲外だからだ。ここではGPLの契約が成立したとは判断されない。したがって、免責事項についても合意があったとは認められない。「これはGPLにとってつらい話かもしれない」(小倉氏)。もしGPLの下で公開されたプログラムにバグがあって、利用者が損害を受けた場合、訴訟を起こされる危険性があるというのだ。
「いままでGPLのソフトウェアを使っていた人はFSF(Free Software Foundation)の理念に共鳴する“いい子”だったので、訴訟を起こすようなことはなかった。しかし今後ソフトウェアがより広く利用されれば、“悪い子”も出てくるだろう。この点には気を付ける必要がある」(小倉氏)
プログラムの改変が著作権を侵害する可能性も
小倉氏はGPLと日本の法律が合わないケースが存在することについても紹介した。GPLは米国で起草されたライセンスのため、日本の法律とは一致せず、FSFの意図した通りに適用されない場合があるという。
GPLと日本の法律の間で最も整合性が取れていないのが、著作権法で守られている著作者人格権の問題だと小倉氏は話す。著作者人格権とは、著作物を作った人物(著作者)の権利を保証するもので、他人が著作者に無断で著作物を公表したり、著作者の名誉を損害する方法で著作物を利用したりすることを禁止している。さらにこの著作者人格権には、著作者の許可なく表現を勝手に変えてはならないという同一性保持権が含まれる。この同一性保持権がGPLと合わない場合があるというのだ。
GPLが作られた米国では著作者人格権というものが保護されておらず、問題にならなかったという。しかし日本の法律の場合、「世界でもまれなくらい著作者人格権が強く守られている」(小倉氏)ため、プログラムを改変すると同一性保持権に触れる可能性があるというのだ。
小倉氏が問題にするのは、GPLでプログラムを公開した人が、プログラムの著作者から著作権を譲り受けた人である場合だ。「このとき、著作者がプログラムの改変について同意しているとは限らない」(小倉氏)。
著作権法20条には改変に関する例外規定があり、「プログラムの著作物をコンピュータでより効果的に利用するために必要な改変」であれば、例外として認められるという。ただしその改変が「効果的」であると判断するのは誰か、という点で課題が残ると小倉氏は指摘する。改変した本人が効果的だと思えばそれでいいのか、それとも客観的に見て効果的であると認められるものでなければならないのか、という問題だ。小倉氏は、判例が少ないのでどちらとも決められないとしながらも、「個人的には主観的な判断で効果的だと思えばいいのではないか」との考えを示した。
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