ケンブリッジ大学と東芝は、量子もつれ光子対を発生させる新たな量子素子を発表した。このテクノロジーは、量子暗号に利用できるものとして期待されている。
もつれ合い、連携された状態にある1対の光子を利用するテクノロジーは、過去10年でますます脚光を浴びるようになっている。同テクノロジーに対しては、暗号だけでなく、通信、量子コンピューティング、医療画像、半導体素子の製造など、多くの用途が期待されている。
東芝欧州研究所(Toshiba Research Europe Limited:TREL)のQuantum Information Groupの責任者Andrew Shieldsによれば、この新たな量子素子は、2つの点で重要だという。1つ目は、通常の半導体を用いて製造できるという点、そして2つ目は、量子もつれ光子対を自在に発生できるという点だ。
同氏はインタビューの中で、「今回初めて、他の半導体と同じくらい簡単に製造できる物から、量子コンピューティングのクロックとして使用できるぐらい規則的かつ信頼性の高い光子パルスを発生できるようになった」と述べている。
素子の仕組み
この素子の大半は、高速論理回路やオプトエレクトロニクス産業で既に広く使用されている一般的な半導体であるガリウム砒素から作られている。しかし、主要部は、インジウム砒素を使用した直径12ナノメートルおよび高さ6ナノメートルの量子ドットで形成されている(人毛の太さは約10万ナノメートル)。
「インジウム砒素は、車のボンネットに落ちた雨粒のように、自然に量子ドットを形成する。ここで重要となるのは、これら量子ドットの対称性を高い精度で実現することだが、この素材の物性がわれわれに代わってそれを行ってくれるのだ」(Shields)
この素子の動作時には、各ドットがレーザーパルスによって励起され、インジウム砒素中の2個の電子が活性化される。このエネルギーは、微妙に周波数が異なる量子もつれ光子対へと変換される。この光子対は、分離し、素子から個別に出力できる。
現状では、この光は波長約900ナノメートルという近赤外線の周波数帯となっている。また、この素子自体は、極低温にまで冷却する必要がある。
「理論的には、この効果を室温で再現できない理由は存在しない。われわれは既に、通信用レーザーが動作する1300ナノメートルの放射を観測している。克服しなければならない課題はまだ残っているが、3〜4年後には実用化できると思う」(Shields)
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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