米Microsoftは先頃、同社Officeソフトウェアの最新版でこれまで明かされていなかった秘密の一部を公開すると発表したが、アナリストによると、この決断の背景には、ライバルや政府当局からの大きなプレッシャーがあったという。
Microsoftは先日、Officeアプリケーションのなかでも最も利用頻度の高いWord、Excel、InfoPathの3つのアプリケーションで使われている独自のXMLスキーマを、米国時間の12月5日から顧客とパートナーに公表すると発表していた。
Microsoftでは、広範なXMLサポートをOffice 2003の重要なセールスポイントの1つとしており、この広く採用されている標準をサポートしたことで、Officeで作成したドキュメントとエンタープライズコンピューティングシステム間での円滑なデータ交換が実現すると約束している。
Officeで採用するXMLスキーマの公開を拒否していた同社に対して、これまで批判の声が高まっていた。このスキーマが利用できないと、顧客には基本的なデータの交換しか保証されず、Officeドキュメントで使われているような、フォーマットや構造に関する高度な情報にはアクセスできないことになってしまうからだ。
米Jupiter Researchのアナリスト、Michael Gartenbergによると、このような懸念はOffice 2003の市場投入後にさらに広まり、Microsoftも対応を余儀なくされたのだという。
XMLは、バックエンドのビジネスプロセスやウェブサービスに適したデータフォーマットとして急速に台頭してきている。しかし、仕様の公開されているHTMLタグとは異なり、XMLのタグは開発者によるカスタマイズが可能なため、ソフトウェアの側でもその(カスタマイズされた)タグを読みとれるようにする必要がある。そしてこのための、ドキュメントの要素を定義するXMLタグが、スキーマと総称されているものだ。
「顧客は、Office 2003がXMLをサポートするかどうかに関心を寄せていたが、しかしスキーマがなければ、(たとえXMLをサポートしたとしても)利用の範囲は限られたものになってしまう。本当の問題は、同社がなぜ最初からこのようなアプローチを取らなかったのかということだ。同社は、こうした反発が出てくることを予想していなかっただけだと思う」(Gartenberg)
Microsoftのビジネス戦略シニアディレクター、Alan Yatesによると、XMLに関する判断は主に顧客からのフィードバックに基づくものだという。Office 2003は複雑な製品であるため、スキーマの公開が顧客やパートナーにとってどれほど有益なことかを認識するまでに時間がかかったと、同氏はいう。
「我々は、長い時間をかけてベータテストを行った・・・いまやっと、そこから得られたあらゆるフィードバックを文書化し、公開し始めたところだ」(Yates)
XMLを完全に公開すると競争上の問題が発生することをYatesも認めており、たとえば、InfoPathの電子書式を開くことは、いまのところInfoPathのクライアントソフトでしかできないが、XMLが公開されれば、ほかのソフトウェアメーカーでもそのためのツールを開発できるようになるという。しかし、Officeアプリケーションが広くサポートされることで得られるメリットは、いかなるリスクをも上回ると同氏はいう。
「InfoPathへの対応を進めているサードパーティー(のソフトウェアメーカー)は既に多数存在しており、今回の措置はそれを早めるだけに過ぎない。補完的役割を果たす多数のソフトウェアが存在するメリットは、クローンと呼ばれるソフトが多数出現することのデメリットを上回る」(Yates)
手綱はやはりMicrosoftの手に
Officeの基盤となっているXMLスキーマは公開されるものの、今後のスキーマの開発をどう進めるかについての決定権は、依然としてMicrosoftが握っている。このため、ライバル各社は、Microsoftが行う変更について行かなくてはならないという負担を背負い込むことになる。
調査会社の米Red Monkのアナリスト、Stephen O'Gradyは、XML公開の決定がデンマーク政府と交渉を繰り返した結果である点が注目に値すると指摘している。同氏によると、各国政府、それも特にヨーロッパ諸国政府からの圧力に押されて、MicrosoftはXMLなどのオープン標準を受け入れることにしたのだという。O'Gradyは、Microsoftが独禁法違反の疑いに関して、欧州連合(EU)と引き続き交渉を続けている点も指摘した。
「MicrosoftとEUとの間で議論が続いていることは、Microsoftと標準の両方にとって良い徴候だ。EUはこれまで、互換性と標準に重点を置いていることを明らかにしてきている。これ(XMLの公開)はMicrosoftにプレッシャーがかかっていることを示すものだ」(O'Grady)
O'Gradyはさらに、各国政府、なかでもアジア諸国の政府が、LinuxやOpenOfficeなどのオープンソースソフトウェアの採用に力を入れていることに言及した。OpenOfficeはXMLを完全かつオープンにサポートし、Officeと直接競合する製品である。
「全世界で見た場合に、LinuxデスクトップソフトやOfficeの代替品となるソフトが相当な影響力を持ってきている地域もいくつか見受けられる。海外には非Microsoft陣営の反撃が始まったように見えるところもあり、Microsoftもついにある程度のプレッシャーを感じているのだと思う」(O'Grady)
米の調査会社Directions on Microsoftのアナリスト、Rob Helmは、長期的に見ると、米Adobe SystemsがMicrosoftにとって、より大きな脅威になるかもしれないと指摘する。ビジネスデータの共有や交換を容易にするPDF(Portable Document Format)の普及を進めるAdobeは、Officeアプリケーションの価値を失わせる可能性を秘めている。
「Microsoftは、Officeを標準保存フォーマットとして維持し続けようと躍起になっている中、Adobeはこの面で僅かながらも脅威となりつつある。もしユーザー企業がPDFを標準フォーマットに選ぶなら、Officeは数多く存在するPDF編集ツールの1つに過ぎなくなってしまう。むろん、PDFに関するこの脅威は長期的な可能性といえるが、それでも余裕のあるMicrosoftはいまから先手を打つことができる」(Helm)
Microsoftは、OfficeにオープンなXML標準をサポートさせることで、PDFの脅威に対抗できる。XMLのサポートによって、Officeドキュメントとデータとバックエンドシステムとの自由なデータ交換を可能にしたり、顧客やパートナー企業にOfficeを中心としたサービスを構築するよう奨励できるからだ。
「Officeをより良い保存フォーマットにするために、Microsoftがすることは、どれもこの点で役に立てる可能性がある。スキーマの公開についても、『XMLベースのコンテンツ管理システムにOfficeのデータを納めることや、XMLツールを使ってドキュメントを分類したりスキャンすることが可能になる』といった売り文句を並べられるのだ」(Helm)
Microsoftが全社的に進めるXMLへの積極的な取り組みは本物であり、またこの標準をサポートしようというIT業界全体の流れを形成する一因ともなっている、というのがHelmの見方だ。
「XMLが広まれば、Microsoft製品の市場も更に広がり、XML情報を公開するデメリットよりメリットの方が上回ると、同社自身も認識している」(Helm)
同社はこれまで、XMLをウェブの標準として確立する上で積極的な役割を果たしてきており、米IBMとともに、Webサービスのアプリケーション開発にXMLを利用するよう声高に主張してきている。
「XMLが本格的に普及すれば、どのベンダー企業も利益を狙って、この標準をサポートするようになる。そうなると、XMLを使ったシステム間のデータ交換も、ずっと簡単にできるようになる。現段階では、独占からメリットを得るよりも、このことの方がずっと重要だ」(Helm)
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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