7月30日より3日間の日程で行われているイベント、ヒューマンキャピタル2003にて31日、内閣特別顧問の堺屋太一氏がIT人材育成セミナーの一環として基調講演を行った。堺屋氏によるとIT人材とは主に3種類。それは、「IT技術者を育成する教育者」、「IT技術の開発・運用・管理などに関わるエンジニア」、そして「ITを元に新しいビジネスモデルやコンセプトなどを作り出す“コンセプター”」だ。「今の日本には3つめのコンセプターが不足しており、また育ちにくい環境にある。コンセプターを育てることこそが日本経済の再生につながる」(堺屋氏)
堺屋氏は、過去10人の総理大臣がみな「改革」を謳っていたにもかかわらず、実際に日本が大きく変わることはなかったと指摘する。「細川元総理は選挙制度を改革し、橋本元総理は行政改革を行った。小渕元総理は金融改革を行い、それまで倒産するとは誰も思わなかった銀行の国営化を実現させた。このようにある程度の改革は行われているのに、日本そのものは変わっていない。それは一部のシステムが変わっても、根本的にある考えが変わっていないからだ」と堺屋氏はいう。
日本の根底にある理念とは一体何なのか。それは全員を平均点に近づけようとする教育にあるのだという。「外国の教育は個性を伸ばすことに力を入れるが、日本では欠点を直すことに力を入れている。得意な科目を伸ばすより苦手科目を克服することで、全員平均点レベルの人間ができあがってしまう」と堺屋氏。「“個性のある人”は“クセのある人”といわれ、“独創的”であることは“我流”だといわれる。先生に教えられることをそのまま覚える人がいい点を取り、いい点を取った人が官僚や政治家になる。このような個性のない人に改革は無理だろう」
堺屋太一氏 | |
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確かに過去には個性のないことで成功した時代もあった。80年代に日本が規格大量生産で成功し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた時代だ。しかしテクノロジーの進化で多種多様な製品が安価で生産できるようになったことや、ビジネスのグローバル化が進み、規格大量生産では中国の威力に追い越されてしまったことなどもあり、「このまま日本が個性のない規格大量生産時代の理念を持ち続けていてはいけない」と堺屋氏は警告する。
また同氏は、規格大量生産時代に日本企業が「企業として利潤をあげるべき組織」から、「社員の幸せを一番に考える共同体」と変化してしまったことにも警告を与えている。会社としての利益より社員の居心地のよさを重視したことで、企業は競争力を失い、企業内部での争いもなくすべく年功序列や終身雇用が当然となってしまったが、「これは企業に死をもたらす病のひとつだ」と堺屋氏はいう。
このような社会基盤の中、日本では個性のある人材が活躍できない場となってしまったが、「個性のある人材が生き残っている分野が3つある」と堺屋氏。それは、カラオケを生み出した音楽の分野、個性的なキャラクターで世界中から注目を浴びているアニメーションや漫画の世界、そしていまやハリウッド映画を抜いて世界最大の映像産業となったゲームである。このように世界に誇れる強い分野を持っているにもかかわらず、「日本のIT産業は個性的な人材が活躍しにくい分野となっており、そのため世界から遅れを取っている」と指摘する。
「米国の大学生で一番優秀な人材は、自分の個性を発揮したいために自立志向が高い。そして自分の個性で成功する自信のない人が弁護士や医者、また官僚などに流れていくのだ。日本でも“個性のある人材がほしい”といいつつ、“協調性のない人材はいらない”などという。しかしこれからは協調性のない人材を育てるべきではないか」と堺屋氏はまさに個性的な意見を述べ、講演を締めくくった。
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