投資効果の高いOSとしてビジネスの場でも積極的に採用が進むLinux。同OSへの注目は年々高まっており、世界各地でLinux関連のイベントが開催されている。21日より東京都内にて開催されたLinuxWorldにおいても45社が出展、想定される来場者数は4万2000人というにぎわいを見せている。
初日の開幕特別記念講演に立ったのは、経済産業省商務情報政策局情報処理振興課課長補佐である久米孝氏。久米氏は「オープンソースソフトウェアの課題と今後への期待」と題した講演で、Linuxの現状や政府がオープンソースソフトウェア(OSS)を推奨する理由、またOSS普及に向けての課題などを語った。
久米氏はまずLinuxのトレンドについて述べ、世界におけるLinuxのシェアが約20〜30%に達していることを指摘した。日本でのLinuxのシェアは2002年度で7.1%だが、2006年には15.1%と予測されているデータを示し、「UnixとLinuxのシェアは逆転する」と語った。
久米氏が次に見せたデータは、Linuxを採用する理由と採用しない理由の統計を取ったものだ。Linuxを採用する理由として多くのユーザー企業が挙げているのが、「安価である」「信頼性が高い」といった点で、逆にソースコードに手を加えることができるといった理由は少ないのだという。「ユーザーにとって重要なのは、安くて安全な製品であるということ。それ以上のことを特に望んでいるわけではない」と久米氏。また、Linuxを採用しない主な理由としては、製品知識がないことやサポートへの不安、人材不足などが挙げられており、「これはLinuxの普及に向けての重要な課題でもある」と久米氏は述べた。
オープンソースソフトウェアは本当に安くて安全か
経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐、 久米孝氏 | |
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「安くて安全」と一般に思われているOSSだが、果たして本当にそうなのか。この論点についても久米氏は語った。OSSはソースコードをオープンにしてはいるが、実際には課金してもよいことや、サポートや人件費などを含めたTCO(Total Cost of Ownership)を考えると、ひとことで安価とはいえないことを久米氏は指摘する。また安全性についても、「セキュリティが保証されているわけではない」と久米氏。Linuxは信頼性が高いとされているが、それもシステマティックなチェックがされているわけではなく、すべて実績から判断するしかないのだという。しかし「Linuxには質の高いコミュニティが存在しており、このため実績ベースではあるが信頼性はある程度保証されている」と語り、コミュニティの重要さを強調した。
久米氏はOSSを「泉」、プロプライエタリなソフトウェアを「たらい」に例えている。持ち主のみが水の量や質を決めることができるたらいに対し、泉は公共のもので決まった水位というものもなく、常に新しい水が入ってくる余地がある。新しい水がいいものであれば水質はどんどんよくなり、透明度も高くなっていく。ただ、信頼のおけない場所にある泉には「毒が混ぜられる可能性があることも覚えておくべきだろう」と久米氏はOSSの危険性についても述べている。
OSSを推進する日本政府
安価で国際的な技術を確保でき、リアルタイム性・安定性があり、ミドルウェア構築が容易であるという観点から、経済産業省のe-Life戦略研究会ではLinuxやTRONを推奨しているが、久米氏によると実は政府ではまだ民間ほどOSSの採用が進んでいないのだという。採用を義務化するのはよくないという久米氏だが、「安くてよいものを買う」という正攻法で行けば、自然とLinuxの勝算は見えてくるとしている。
現在OSS市場において、日本がリーダーシップをとっている「日本発OSS」が海外と比較して極端に少ないことも久米氏は指摘している。海外依存体制が消えていないOSSではあるが、久米氏は組み込み分野においては日本の競争力に期待しており、「今後も伸び続けるだろうし、競争力を維持していくべき分野だ」と述べている。
組み込み分野以外にも久米氏は、OSSがシステムインテグレータの業界構造改革のきっかけとなることや、課題は多いがデスクトップ分野への浸透も期待していると語り、OSSを今後も推進していくと強調して講演を締めくくった。
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