経済産業研究所は6月25日、オープンソースコミュニティと政策担当者との討論会を開催した。経済産業省では、日本のソフトウェア産業の競争力強化を目指してオープンソースソフトウェア(OSS)関連の取り組みをいくつか進めているが、それがコミュニティにうまく伝わっていなかったり、逆にコミュニティ側がそういった政策に対して感じていることや要望が政府に伝わっていない面がある。このようなギャップを埋め、今後オープンソースの発展のために政府やコミュニティはどういう取り組みをすればいいのかについて、文字通りオープンでざっくばらんな討論会が行われた。
エンジニアはいかにして育つのか
討論会での最初の話題は人材育成についてだ。今回議論に参加していたエンジニアらは、若い頃に独学でOSSの開発を学んだケースが多いようであった。だが、このような業界リーダーともいえるエンジニアは一部のエクストリームであって、一般企業に勤めるエンジニアは企業内で決まったプロジェクトに取り組み、日々の業務をこなすのみで新たな技術を学ぶ機会も少ない。
そこで課題となったのは人材の流動性だ。シリコンバレーなど米国ではエンジニアが競合会社に次々と転職し、違った環境で新たな技術を身につけていくケースも多いが、日本ではエンジニアもその技術も企業内にとどまったままで、米国のようなケースは稀である。ただ、人材流動性の実現が困難な日本社会でこそ注目を浴びるべきなのがオープンソースだとの意見もある。オープンソースでの開発は、転職したとしてもその基礎知識を生かすことができるからだ。
いっぽう、OSS開発者となるには「プロプライエタリなソフトを開発する以上に“よい教育者”が必要だ」という。それは討論会の参加者も身にしみて感じており、「セミナーをすれば数多くのエンジニアが集まってくるのだが、実際にはOSSを教えられる人も少なく、教えてもらえる環境がない」という不満も。一部のエンジニアは「OSSそのものが人を育ててくれる」と、自主的に力をつけているようだが、このままでは伸びる人は伸びても裾野が広がらないというのが討論会参加者共通の意見のようである。
政府にできる環境整備とは?
オープンソースコミュニティの人々は、おもに個人や非営利団体としてOSSに関わるなどしており、利益を追求しようとしているケースは少ない。そこで政府も単に金銭的な支援をすればいいと考えているわけではなく、「コミュニティが活動しやすい環境を作ることが大切」という立場なようだ。
ただ、利益は求めなくとも活動自体には機材や通信も必要となり、お金がかかるものだ。そこで「活動をするにあたっての最低限の費用が経費として申告できないのは困る」と関係者は声を大にしており、米国で経費や寄付金に対する税制が整備されていることを引き合いに出している。「政府はOSSを支援する必要はないが、OSSを支援しているわれわれに対する支援策を考えてほしい」というのがコミュニティ側の代表的な意見だ。
OSSのマーケティングに対する重要性
また、オープンソースコミュニティ、しいてはフリーソフトのことを世間一般に広めるためのマーケティングが必要かどうかについても議論が進められた。海外では、Eric RaymondやBruce Perensなどの有名人が常にOSSについて語っており、メディアに対して控えめなLinus Torvaldsでさえ雑誌の表紙に取り上げられているのが現状だ。いっぽうの日本ではそのようなOSS開発における代表的な人物が一般的に注目されることはない。今回の討論会出席者であるRubyプロジェクトの「まつもとゆきひろ」氏や、グローバルITセキュリティグループの「g新部裕」氏など、コミュニティ内では知らない人はいないという人物がいるにも関わらず、である。
これについてはコミュニティ間でも意見が分かれており、「日本ではさらしものになるためのインセンティブが少ない」「OSSを広める前に日本社会の受け入れ体制を整備することが必要」などの意見が寄せられたが、いっぽうでOSS伝道師といわれる海外の著名人も、常に中傷をあびる危険性を伴いつつ積極的にマーケティング活動を行っているとの声もあがった。
議論は約3時間に渡って続けられ、ここで一部紹介した以外のトピックについてもさまざまな意見が交わされた。参加者はみな、時間さえあれば果てしなく意見交換を続けるような勢いさえあったが、それは次回に持ち越しということで第1回目の討論会は締めくくられた。討論会の詳細は、経済産業研究所のサイトにてストリーミング映像が近日中に公開される予定だ。
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