米でプラスチックトランジスタ製造方法が相次ぎ発表に

Michael Kanellos (CNET News.com)2004年04月19日 10時31分

 最近の研究プロジェクトが実を結べば、そう遠くない将来に雑誌上でビデオを再生したり、インクジェットプリンタで半導体が印刷できるようになるだろう。

 先週、XeroxとTDA Reserchの研究者らはそれぞれ、シリコンではなくプラスチックからトランジスタを製造する方法を発表した。これらの方法を使った商用化も可能だという。

 プラスチックからトランジスタが作れるようになれば、チップメーカーは何十億ドルもかけて半導体工場を建設する必要がなくなるので、コンピュータディスプレイのコストが大幅に下がる可能性がある。

 また、堅いチップではなく、薄いフィルムや成型可能な素材を使って電子を接続するため、インターネットに接続できるものの種類が大きく広がることも、重要なポイントだ。たとえば、雑誌に薄いスクリーンをはさみ込み、ウェブサイトにワイヤレス接続したり、ジュースのプラスチックボトルから在庫管理装置に信号を送ったりすることも可能になるだろう。

 これらの電子ポリマーを開発したのはXerox Research Center of Canadaの研究チームだが、同チームを率いたXeroxフェローのBeng Ongは「(これらの物質でできた)低性能スディスプレイなどが、今後2〜3年の間に市場に登場するかもしれない」と述べている。

 TDAも同じく先週、安価な太陽電池や環境センサの製造に利用できる導電性ポリマー、Oligotronを発表した。このプロジェクトは米国立科学財団(NSF)の助成金を受けて行われたものだ。

 導電性ポリマーはこれまでにも作られたことがあるが、ただし実用性に乏しいものが多かった。一般に導電性ポリマーは液体に溶けないために成形や噴霧が困難で、大気や水中で腐食しやすいという問題があった。

 Xeroxのプロジェクトでは、半導体として機能し(つまり、シリコンのように命令に応じて電気を通し)、かつ地球上の普通の環境で比較的安定する分子が開発された。チップメーカーは埃を排除するため、現在はクリーンルームのなかでチップを生産しているが、このポリマーならそのような環境は必要ない。

「普通の環境でプリント可能だ。家電用にチップをプリントするためには、空気中で行なう必要がある」(Ong)

 この分子は噴霧されると、隣接する分子に合わせて自らを配置する。「この分子は、電荷を送るための正しい構造に自己組織化することができる」(Ong)

 Xeroxはこの他に、2つの人工分子(designer molecules)を開発した。1つは金属のように電気を通す導体となるもので、もう1つは誘電体や絶縁体として振るまうものだ。

 これら3種の分子はいずれも半導体の重要な要素であることから、これらを組み合わせれば、印刷可能なチップが実現できそうだ。半導体はオンオフを切り替えることにより基本的なデジタル信号を作り出し、導体は半導体同士の接続に、絶縁体はクロス信号防止に使用される。

 Xeroxのパロアルト研究所(PARC)は既に、ディスプレイのバックプレーンとして機能する電子配列を構築している、とOngは言う。このバックプレーンはオンオフを切り替えられ、半導体物質が機能していることが分かる。

 XeroxとMotorola、Dow Chemicalは現在、この物質をさまざまな電子機器に統合したり、いろいろな印刷技術や特殊マスク技術で導体の付着を制御したりする実験をさらに進めている。Ongのグループでは今後、導体と絶縁体物質の噴霧実験を行なう。

 一方Oligotronは、PEDOT(ポリエチレン・ジオキシチオフェン)という物質の1種だ。TDAによると、PEDOTは導電性があるものの、水で腐食するので使いにくいという。

 この問題を回避するため、TDAは核となるPEDOT分子に2つの分子を追加し、半導体メーカーがこの物質を操作するための溶媒槽を開発した。メーカーはこの溶媒の中で、Oligotronでできたジュースのボトルを成形する。そして成形後に硬化されたボトルは、信号の送信に用いることが可能となる。

 XeroxとTDAの実験はいずれも、物質を分子レベル操作した場合だけに見られる独特の性質を利用しているもので、ナノテクノロジーの例と言える。

 他の企業も、カーボンナノチューブや有機発光ディスプレイ(OLED)などで同様の素材生成に取り組んでいる。

 しかしシリコンが一般的な市場で、これらの素材がシリコンと競合するとは考えにくい。その理由の1つとして、プラスチックのトランジスタはサイズが巨大であることが挙げられる。Xeroxの回路は幅20〜50ミクロンであるのに対し、Intelなどのメーカーは幅90ナノメートルのチップを大量生産している。1ミクロン(100万分の1メートル)は1ナノメートル(10億分の1メートル)の1000倍の長さだ。

 しかし、それでもビデオやPDA用のディスプレイをつくるのには十分な小ささだという。通常これらのディスプレイは1平方インチあたり110ピクセルしかないとOngはいう。

 Xeroxが開発した素材は導電性にも優れており、Ongは「われわれのコンダクターは、金とほぼ同程度の導電性をもつ」と述べている。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向け に編集したものです。

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