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ソフトウェア開発に不可欠となった「Blog」

2003/02/06 14:04
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 ソフトウェアの開発プロセスにおいて、秘密主義は一つの大きな特徴とされてきた。開発中のソフトに関する情報を、あまりに早い段階から必要以上に多くの人間に漏らすと、何者かにアイデアを盗まれる危険があるからだ。

 しかし今、多くの大手ソフトウェア開発会社が、開発時から情報を公開して潜在顧客と共有し、フィードバックを取り入れることで、より優れたソフト開発が可能になると考え始めている。ゲームソフトの開発会社は以前からこの手法を採用してきたが、ここにきてビジネス関連のソフトウェアメーカーも顧客と情報を共有することの重要性を認識しつつある。

 開発中のアプリケーションに対して、早い段階から顧客や優秀な開発者の注目を集める方法として、WeBlog(俗にBlogという名称で知られる)や掲示板、フォーラムなどの重要性が高まっている。

 ソフトウェアの草分け的存在であるLotusの創始者であり、同社の画期的な表計算ソフトLotus 1-2-3の作者でもあるMitch Kaporは、より高性能な個人情報管理ソフトを開発するため、開発の初期段階からBlogを立ち上げた。Kaporによると、Blogは開発計画についてユーザーと議論したり、あるいはユーザーからアイデアを集めるのに大変重要な役割を果たしているという。

 「世界で最も有能なソフト開発者が数名、今回のプロジェクトに興味を示しており、Blog上で意見交換を行なっている。フィードバックの数が増えれば増えるほど、より多くのアイデアを製品開発に取り入れることができる」(Kapor)。

 KaporはBlogを通して、見込みユーザーに開発の進展状況やKapor自身のアイデアなどの最新情報を提供している。またBlogの読者には、電子メールや公開/非公開チャットなどを通じて意見を寄せて欲しいと呼びかけている。

 「この計画の意図は、我々が今取り組んでいるプロジェクトの情報を人々に伝えることにあった。これは長期にわたるユーザーコミュニティ構築過程のごく一部にすぎない。どんな開発プロセスにもメリットとデメリットがある。しかしプロセスを公開すれば、より質の高いフィードバックが得られるし、他人の斬新なアイデアは大きな刺激になる」とKaporは語る。

 Web規格の一つ、SMBmetaの開発に取り組むDan Bricklinにとっても、Blogは開発プロセスにおいて重要な役割を果たしてきた。SMBmetaは中小企業のオンラインビジネスを支援する大規模なオンライン企業ディレクトリを作成するための規格である。最初の表計算プログラム、VisiCalcの共同発明者であるBricklinによると、Blogをはじめとしたオンラインコミュニティは、選ばれたテスターたちに初期版プログラムを送るという従来のベータテストとは比べ物にならないほどユーザーからのフィードバックの可能性を広げているという。

 「かき集めた名刺を使って必死にベータテストに協力してくれる人を探したのを覚えている。ふさわしい人を見つけて電話をかけ、協力してくれるよう頼み込み、引き受けてくれた人にはソフトを郵送した。また、作業の進み具合を確認するため、毎週の電話も欠かせなかった」とBricklinは振り返る。

 「Blogはコミュニケーションを取るための手段として簡単で、しかも安価に利用でき、ほかの方法に比べて効率性もはるかに高い。またBlogを使うことで、非常に広い地域からフィードバックが寄せられる。Blogのおかげで思いもよらないすばらしいアイデアが生まれる可能性も増える。すでに私は、Blogで人々と共有してきた情報を基に、バグを見つけたり、より質の高い仕事をするための方法を模索している」(Bricklin)

 ビジネス関連のソフトウェア会社は、開発の初期段階におけるフィードバックの重要性をようやく認識し始めたところだが、ゲームソフト開発会社はかなり以前からこのことに気付いていた。従来型のオフラインゲームの開発には、依然として発売まで情報を隠したり、限られたテスターを使ってベータテストが行なわれているが、マルチプレイヤーオンラインゲームの開発会社は早い段階から見込み客の意見に耳を傾けることを学んでいる。

ユーザーコミュニティは必要不可欠

 「オンラインゲームは社会的な性格を持つため、早い段階からユーザーコミュニティを構築することが必要不可欠だ」と語るのは人気オンラインゲームEverQuestの提供会社、Sony Online Entertainmentのマーケティング担当バイスプレジデント、Scott McDanielである。

 「コミュニティ構築は、当初から優先課題として取り組まないと軌道に乗せるのは難しい。人々がゲームに関する必要な情報を確実に入手できるようにし、ゲームを楽しんでもらった上で、さらに宣伝してくれるようにしなくてはならない。我々はさまざまな宣伝や販売促進活動を行なっているが、人々がEverQuestに登録する最大の動機は口コミ、すなわち「試しにやってごらん」という友人の一言だということが分かった」(McDaniel)

 近日公開されるSony Online Entertainment提供のオンラインRPG、Star Wars GalaxiesのWebサイトは活気あるユーザーフォーラムで溢れている。同サイトが開設されたのは今からおよそ2年前、ベータテストの第1段階が行なわれるよりもずっと前のことであった。開発者たちは、サイト上で開発の進行状況について最新情報を提供したり、読者との公開チャットを開催したり、あるいはフォーラムなどを通じてフィードバックの提供を求めている。

 McDanielによると、初期段階に得られたフィードバックはStar Wars Galaxiesの開発の方向性を決める上で重要な役割を果たしたという。「我々はごく基本的な質問をするところからスタートした。読者から寄せられた回答を読んだ我々は、当初全く予想していなかった方向に進むことになった」とMcDanielは振り返る。

 ゲームソフト大手のElectronic Arts向けにゲームを開発しているWestwood Studiosのシニア開発ディレクター、Rade Stojsavljevicによると、銀河系を舞台にした同社の新RPG、Earth & Beyondの開発チームは、テスト版ソフトを各方面に発送するよりもかなり前からフィードバックを集め始めたという。

 「我々はコミュニティがまだごく小規模だった頃から、長時間を費やし、プレーヤーからのフィードバックを集めた。また早い時期にフルタイムのコミュニティ管理者を採用した。管理者の仕事は、プレーヤーのフィードバックの中から重要情報を選び出し、それを開発チームに伝えることだった」とStojsavljevicは語る。

 Stojsavljevicによると、早期からフィードバックを集めた結果、Earth & Beyondの構造を大きく変更することになったという。当初の構想では、「アバター」と呼ばれるプレーヤーの分身キャラクターを表示させることは想定されておらず、プレーヤーが宇宙船を自分好みに改造するという点に重点が置かれていた。

 「プレーヤーは誰が自分の宇宙船に乗るかなど一切気にしないだろうと我々は考えていた。金属の塊に愛着を感じることは難しいという点に当初我々は全く気付かなかった。この点について、ユーザーグループの見解は明解で統一されており、彼らには大変重要な指摘をしてもらった。それ以降、我々は長時間を費やし、アバターを表示するためのシステム開発に取り組んだ」(Stojsavljevic)

必要なのは図太さと謙虚さ

 ただし、世界中の人々に自社のソフト開発に参加してもらうとなると、それなりの負担を伴う。たとえば、掲示板や電子メールなどで寄せられる数多くの提案の中から、価値あるアイデアだけを選別するにはかなりの時間を要する。WestwoodはEarth & Beyondを専門に扱うフルタイムのオンラインコミュニティ専門家を5人揃えた。彼らは寄せられた意見を選別するのに大半の時間を費やしている。

 「コミュニティ内で話題になっているのはどのアイデアかを突き止め、それを開発チームの適切な人に伝える担当者を置くことが大変重要だ。Earth & Beyondでは、開発ピーク時には150人のスタッフがいた。全員が全体の様子を把握するのは不可能だ」(Stojsavljevic)

 また、非生産的なものや語り尽くされたスレッドを排除する仕事もある。さもなければ、アイデアが停滞し計画が行き詰まってしまいかねない。

 「ユーザーに対して我々は、何を行なっているのかいないのか、この問題は解決済みなのかどうか、この問題に関してはこういう理由がある、といったことをはっきり述べる必要がある。立場を明確にして語り合わなければ議論は永遠に終わらない。ただし、すべての前提にはコミュニティを尊重する配慮が必要である。開発者側の独裁的な姿勢を見せてしまうと、コミュニティはうまくいかない」とLotusの創設者であるKaporは指摘する。

 また開発者は、投稿者からの大変厳しい意見に耐えられるだけの神経の太さと、自分の過ちを認められるだけの十分な自己認識能力を持っていたほうがよい。

 「ソフト開発者になるには、自尊心と謙虚さの両方が必要である。ソフト開発には多くのバグや困難がつきものだ。それを克服し仕事を継続していくためには、自尊心は欠かせない。しかし同時に、経験から学び、物事を正しい方向に変えて行くための謙虚さも必要である」とBricklinは語る。

 開発者が適切な態度を取り、十分な注意力を持ってさえいれば、一般の人にソフト開発プロジェクトに参加してもらうことで、開発者の手の内にあるときからプロジェクトを成功させることもできる。

 「これを正しく実行すれば、アーリーアダプター(流行の先駆者)やエバンジェリスト(伝道者)、多くの初期支援者を得たも同然だ。汽車はすでに駅を出発し、製品リリースの前からすでにスピードを上げている」とKaporは語る。

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