先日、中国にて「ONE PIECE」の新聞(銭江晩報)での連載が始まったとの情報が話題となった。日本のメジャー作品でありメジャー出版社が本格的に中国市場へ舵を切り始めた大きなニュースといえるだろう。
中国市場は大変魅力的だが、一筋縄ではいかないマーケットであることは誰もが承知しているところである。
特にコンテンツ分野は政治、文化、自国の産業育成に抵触するとみなされ、非常にセンシティブな産業である。経済が急成長している中国では自国にない知財を育成することに力を入れている。
それゆえに日本が世界を席巻しているマンガ、ゲーム、アニメをそのまま輸入したのでは国内市場を席巻されてしまい、自国のコンテンツ産業が崩壊してしまう恐れが規制の背景にあるといわれている。
その意味ではメーカーや製造業の参入スキームとは大きく異なるといえる。中国本土にチャレンジするのであれば、まさに「郷にいれば郷に従え」と前回のコラムで記したが、様々な角度から環境を整備しなければならないだろう。
今回の集英社の取組みは、旧小学館プロダクション(現集英社小学館プロダクション)が任天堂と共にポケモンを米国進出させたときの状況を彷彿させる。方法論の角度はまったく違うが、目の付け所は非常に興味深いアプローチといえよう。
ポケモンの場合は、当時、日本ではブレイクし始めていたが、米国側(米国任天堂:NOA)ではUS版で売り出すリストにも入っていなかったという。
しかし、日本での大ブレイクによって無視できないゲームとなる。米国側はゲームジャンルがRPGということ、キャラクターもクールではないとの評価で、このままでは米国ではヒットしないとの判断となった。
そこですでに日本で放映していたポケモンアニメを米国の子どもに視聴させたところ、非常にウケがいいことがわかり、ゲーム以外でのマルチ展開構想を考えたという。
そして「ピーナッツ」休刊で、新しい新聞連載漫画を探していた米国新聞社からのオファーにつながるのである。スヌーピーの後継掲載がポケモンになることは米国民の信用に大きな影響を与える。このことがポケモン海外展開成功の第一歩となったといわれている。
今回の「ONE PIECE」については、すでに中国本土で単行本は販売されているが、主体性を持ってビジネスをできていない状況にある。それを打破するためにあえて政治的色彩が強い新聞と組み、日本のマンガの地位向上を図るとともに、お墨付きをもらうという手法は、中国でビジネスをする上で戦略的に利にかなった選択肢といえるかもしれない。
ところで、中国では都市ごとに重点産業を決めて育成、誘致を進めている。コンテンツ分野においてはアニメ、マンガは上海の西に位置する杭州市が力を入れている。杭州市は電子コミックでも、中国移動のモバイルコミックの拠点として位置づけられている。
先日、日本において電子書籍の大手取次ビットウェイが中国の携帯キャリア最大手中国移動を通じて、日本の電子コミックを提供することになった。広告代理店であるADKは、中国でアニメ産業を積極的に推進するために「北京IMMG国際文化伝媒有限公司」を設立した。
いずれの企業も今まで中国本土へ展開し、夢破れて撤退してきた日本のコンテンツ企業の経験を踏まえた形でチャレンジを試みている。
集英社は政府に近い新聞社との連携、ビットウェイは携帯電話キャリア最大手との連携、ADKも文化部直轄の国家級文化企業集団「中国動漫集団」との連携を掲げている。
さらに連携する際は、現地企業との合弁会社、もしくはシンガポールや香港で設立した会社を介して展開している点も重要である。
そしてコンテンツならではの特徴として、事業内容に中国国産コンテンツの制作が掲げられている。その点でいえば「ONE PIECE」は稀有なケースであるといえよう。
ここに挙げた企業以外にも、角川、エイベックス、東映アニメーションなどは、数年前から参入しており、最近ではGREEなどの新興SNS企業も中国本土に向けて展開している。
過去の経験や現地でのマーケットリサーチを経て、中国マーケットにチャレンジしている企業は今後も増加していくであろう。
ただし中国はコンテンツバブルであり、すでに日本のコンテンツ企業の資本スケールでは太刀打ちできないほど、現地企業が肥大化している状況にある。
日本のコンテンツ企業の海外進出は、企業体そのものをどのように再編し構築していくかという問題に行き着くことなのかもしれない。
*今回のコラムは筆者が「ビジネスファミ通」に寄稿したものを抜粋。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より現職。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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