進化するオーディオ圧縮技術--開発者たちはいま - (page 2)

John Borland(CNET News.com)2004年03月29日 10時00分

海中潜水技術がはじめの第1歩

 オーディオ開発のパイオニアたちの多くは、大学やその他の研究機関でその第1歩を踏み出している。すでにレコーディング技術者およびコンサルタントとしていくつかの開発を手掛けていたLiljerydだが、大きなチャンスが舞い込んできたのは1980年代半ば、北海の石油開発に携わっているという男が彼のオフィスを訪れた時のことだった。

 「ダイビングについて何か知っているか」とその男に聞かれて、Liljerydは「いや、あまり」と答えた。しかし、実際にその男が探していたのは、深い海に潜ることよりもオーディオ技術に詳しい者だった。男が携わるプロジェクトではダイバーが海中深く潜るため、酸素の中に大量のヘリウムを混ぜる。その結果、ダイバーの声が変化して高いトーンのかすれ声になり、地上で作業する者とのコミュニケーションが困難になるのだと彼は言った。

 そこでLiljerydは、ダイバーの声を地上で理解できるレベルにまで下げられるデジタル音程変換装置を開発した。10年間の大半をこのプロジェクトに費やしたLiljerydだったが、その一方でデジタルオーディオの圧縮と変換に対する彼の興味は膨れ上がり、資金が底をつくまで補聴器の開発プロジェクトに力を注いだ。そして1996年、生活をしていたボートのベッドの上で目覚めたとき、頭痛とともに新しいアイデアをひらめいたのだった。

史上最小のオーディオファイル作成法とは

 「コーデック」と呼ばれる最も圧縮率が高いオーディオフォーマットは、「知覚オーディオコーディング」として知られる技術を用いて、CDに記録された大量のデジタルファイルを圧縮する方法だ。この技術は基本的に、元となる音声から人間の耳では聞き取れない情報を削除して圧縮する。

 この作業は複雑で、非常に主観的なものとなることが多い。しかし、原則的にファイルを縮小するときは、最も高い周波数と最も低い周波数を削ぎ落とすか、それらをまとめて捨てる。概して、曲全体の音符は維持されるが、オリジナルと比べて貧弱な音になる。

 Liljerydのアイデアはこうした技術をひねったものだ。オーディオファイルの高い周波数に占める情報の多くが、実質的には低い周波数から派生すると結論付けたLiljerydは、従来のアプローチをやめた。高い周波数を削除し、低い周波数に含まれる情報の中から失われた音を再生するための指令を送るという方法を見出したのだ。

 こうした手法は、肖像画を送る際に、顔の片面の絵だけ送り、もう片面についてはヒントとなる情報だけを送るようなものかもしれない。ヒントが出す指令によって、完全な肖像画を再生するといった具合だ。

MP3チーム結成

 Liljerydが特許申請を始めたころには、彼はすでにMPEG標準化グループの一員になっていた。オーディオビジネスの最新情報を求めて会合に参加するようになったという。そこで彼が出会ったのは、MP3やAACといった標準オーディオ技術の開発の大部分を手掛けたFraunhofer Instituteで研究チームのリーダーを務めたMartin Dietzだった。

 最初に2人が出会ったとき、Liljerydは苦境に立たされたという。というのも、特許申請のプロセスが完了していなかったため、自分が開発したテクニックがどのようにして動くか、実際に説明することができなかったのだ。LiljerydはDietzを脇へ連れ出して、AAC(Fraunhofer Instituteのチームが数年かけて開発した技術)を改良できると言った。ただし、この段階では具体的に説明することはできなかった。

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