総務省が中心となって推進している2.5GHz帯を利用した広帯域移動無線アクセスシステムBWA(Broadband Wireless Access)の実現に向けて、総務省は、BWAの推進や現状報告、免許取得希望者からのヒアリングを行う「BWAカンファレンス」を開催した。
免許を取得すれば、BWAの周波数帯域の割り当てを受け、サービスを提供することができる。高速な無線インターネットという潜在ニーズの高いサービスだけに、インターネットインフラ事業者や携帯電話キャリアをはじめ地方自治体に至るまで、14組が意見陳述を行うこととなった。このため事前に計画されていたスケジュールが急きょ2時間近く前倒しとなり、午前11時からの開催となった。
BWAは、日常の行動範囲内であればどこであろうと、自宅や職場から持ち出したPCをブロードバンド環境でストレスなく使用できること、都市部を中心に広域をカバーできること、一般公衆が利用できることを目的とした無線規格。サービス内容としては、オールIPベースのネットワークに接続することを前提とし、ベストエフォート型で中速程度の移動速度でモビリティが確保されることと定義している。
BWAシステムの検討対象技術としては、割り当て可能な周波数が2535〜2630MHzであり、ここには電波干渉を防ぐためのガードバンド帯域も含まれる。このような状況から、周波数資源の有効利用の観点からTDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式が適当としている。これらの条件から、技術方式は「IEEE802.16e-2005(WiMAX)」「IEEE802.20(MBTDD-Wideband)」「IEEE802.20(MBTDD-625k MC)」「次世代PHS」の4方式を対象として検討が行われることとなった。
BWAの要求条件は、第3世代(3G)と第3.5世代(3.5G)の移動体通信を上回る伝送速度および周波数利用効率、中速程度以上のモビリティとなっており、これまでの調査によって、対象となる4方式とも要求条件を満たすことが確認されている。なお、2.5GHz帯域は2535MHzより下の周波数を通信衛星「N-Star」が使用しており、2630MHzより上の周波数はモバイル放送が使用している。これらとの干渉を防止するガードバンドを含め、95MHzをBWAの対象として検討している。また10MHzは一定期間運用制限をするため、実質的にBWAのサービスに使用されるのは80MHzだという。
カンファレンスでは、BWAの実現に向けたパネルディスカッションが行われた。パネリストには東京工業大学大学院 理工学研究科 教授の酒井善則氏、慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所 教授の菅谷実氏、兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科 教授の辻正次氏、京都大学大学院 情報学研究科通信情報システム専攻 教授の吉田進氏が出席。コーディネーターは総務省総合通信基盤局電波部長である河内正孝氏が務めた。
パネルディスカッションは、BWAサービスへの期待、望ましい利用形態、望ましい事業者の数、サービスが満たすべき要件の4点において議論がなされた。サービスについては、「広範囲で高速のインターネットを利用できることは非常に期待されている。定額制で利用できることがベスト」(酒井氏)。「マーケットの観点から、既存サービスとの競合性が気になる。また、無線系サービスは安く利用できるという傾向はBWAにもあてはまるか」(菅谷氏)。「アプリケーションの観点から、音声や動画などさまざまな機能を本格的に利用できる可能性がある」(辻氏)。「3G、3.5Gを超えるサービスとしてHSDPAがあるが、BWAはPCでも使いやすいため普及する可能性が高い」(吉田氏)などの意見が出た。
また、BWAという新しいインフラが登場することで、その上に載せるサービスは多様化しビジネスチャンスが広がる、光ケーブルが敷設できない地域などでも利用できるためデジタルデバイド解消に有効であるといった建設的な意見が出る一方、家庭や端末あたりの実行速度が低下する可能性なども懸念された。また、サービスを提供したい事業者が多いが、帯域幅が限られているため小分けしすぎても効率が悪くなるため、どう分けるかがポイントとなる。競争と技術面でのバランスが重要という意見が多かった。
サービスが満たすべき要件では、音声よりデータ通信を重視すべきであるという意見や、高速な接続速度、ローミングの保証、異なるシステム間での接続性など、ユーザの利便性を重視すべきという意見も出た。また、事業者の選定には事業の採算性や公益性を重視し、日本発の国際スタンダードとしてグローバルな標準化を目指せる事業者が適当である意見もあった。
パネルディスカッション後の免許取得希望者によるプレゼンテーションには、限られた帯域幅を求めて14の企業や地方自治体が参加したが、登壇者達の多くはWiMAX方式の採用を求めた。詳細は以下のとおり。
IRIユビテックらは、BWAをブロードバンドゼロ地域および未利用地域でも利活用できるようにするためのものとしてとらえている。また、自治体をはじめ鉄道沿線や発電所の監視、テレメトリング、鉄道車両や緊急車両でのブロードバンド接続など、地域事業者による特定目的利用にも有効とした。
特に郊外(ルーラル)地域では、ネットワークの共通基盤から地域への提供手法としてBWAを活用し、その部分は地域BWA事業者に機能を提供するべきとしている。これにより地域ニーズが高まり、さまざまな業者の参入機会が与えられる。BWAの全国展開はルーラル地域のラストワンマイル対策になるとともに、都心部のモバイルワーカー向けサービスにも活用できるという観点だ。なお、具体的な方式についてはWiMAXが適当であるとした。
アライドテレシスホールディングスおよび秋田市、東北インテリジェント通信は、「BWAこそデジタルデバイドを解消できる手法である」と述べる。BWAは、地方単位でも都市部と同時、もしくは先行して整備できるため、あわてずに現状の課題をクリアしていきたいという考えだ。また、総務省に対しては高出力FWA(Fixed Wireless Access:数Mbps〜数十Mbpsの高速無線)システムの導入に対しても検討する必要があると説明。BWAとFWAが共存できる制度の整備が必要であるとした。周波数の割り当てに関しては、可能な限り最小とし、利用者数や帯域の消費量によって逐次追加割り当てとすることが望ましいと述べた。また、免許事業者の選定プロセスを明確化することを訴えた。
現在、茨城県でADSLサービスを提供しているドリームダイレクトは、ADSLサービスを利用できない地域に対するブロードバンドサービス提供を求める。海外での採用実績があることやチップの低コスト化、カバーエリアの広さからWiMAXの採用を提案 また、自営設備収容簡易局舎(RTボックス)同士をBWAで接続し中継することにより、より広範囲のユーザーにサービスを提供することが可能であるとした。無線免許に関しては新規参入者を優先すべきであり、またデジタルデバイド解消実績のある事業者に免許すべきで、中小事業者にも無線参入の機会を設けるべきであるとした。さらに、エリアは全国を3個所程度に分けることが望ましいと述べた。
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