施設設置負担金(電話加入権)が引き下げられ、損害をこうむったとして5月30日、「電話加入権の損害賠償を求める会」メンバーの約100の個人と企業が日本電信電話(NTT持株)、NTT東日本、NTT西日本と国を相手に、約1億円の損害賠償を求める集団訴訟を起こした。
電話加入権はNTTの固定回線を設置する際に必要となるもので、2005年までは額面価格が7万5600円だった。それが昨年には半額の3万7800円へと値下げされており、数年後には全面廃止=ゼロ円にする方向で総務省とNTTは動いている。2004年10月、総務大臣の諮問機関である情報通信審議会は電話加入権廃止を認める答申を出したのだ。
電話加入権は税務上、会計上も譲渡可能かつ減価償却できない金銭的価値を持つ財産権とされており、個人でも企業でも大きな財産として引き継がれてきた。日本全国でその総額は約4兆円を超える。
これに対して、NTTは加入権を基本料金と同様のサービス利用料とみなしており、返還はできず、また状況に応じて料金が変動するのは当然だという考えを示している。また、総務省は「許認可の対象ではないので、NTTの判断にまかせる」との姿勢を取っている。
このようなNTTと国の方針に対し、福井県に住む会社役員の前波亨哉さんは2万6000人分の加入権料の変換を求めた署名を提出したが、門前払いを食らったという。
そこで前波さんは「電話加入権の損害賠償を求める会」を結成し、集団で提訴することにした。集団提訴に加わった企業は通信機器、土木工事業、販売業、ソフト開発業、金融業、印刷業など多岐にわたっている。今回は第1次訴訟だが、夏にはさらに多くの賛同を集めて2第次訴訟を起こすという。
日本で電話サービスが開始されたのは1890年。当時は工事費が無料だったが、すぐに需要と供給のバランスが悪化し、電話を引きたくても工事待ちの状態となったことから、自然発生的に電話の売買が始まった。そして1897年、逓信省(通信などを監督する当時の省庁)は加入申込登記料として料金を徴収することを決定し、以来100年間にわたって名称や金額は変わったものの、加入権制度は連綿と引き継がれてきた。
電話工事待ち、電話債滞という状況は高度成長期の1970年ごろに約300万件とピークを迎え、当時は1回線が数十万円の値段を付けたという。
しかし、1978年には債滞は解消し、以降は申し込めばすぐに電話が引ける状況になった。ところが当時の電電公社は加入権制度をそのまま継続した。
1997年、NTTはISDNにおいて「INSネット64ライト」という新しいサービスを開始した。これは加入権が不要な代わりに、毎月の基本料金に640円が上乗せされるというもの。そして2002年からは固定電話でも「加入電話・ライトプラン」という、加入権不要、基本料金上乗せの制度を始めた。当時の7万5600円の加入権と比べると、9年4カ月以内の利用ならば割安になるというものだった。だが、現在では加入権が半額に値下げされてしまっており、加入者のメリットは少なくなっている。
このところNTTは他キャリアとの競合やIP電話の普及などで収益が脅かされているとして、競争力を復活させるために再びグループ強化を訴えている。だが、売上高にあたる営業収益が10兆7411億円、営業利益1兆1907億円という超巨大企業であることも事実だ。
原告代理人の野村吉太郎弁護士は「今回の訴訟では加入権の目減りだけでなく、何の根拠もなくNTTが決めたいように決めている基本料金なども追求していく。そしてNTTの設備はNTTが自由にできるのものなのか、国民共通の財産なのかを問う」と裁判の意義を述べた。
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