2005年は、固定電話事業にとって大きな意味を持つ1年となりそうだ。これまでNTTが築き上げた独占体制を崩すべく、KDDIやソフトバンクグループの猛攻が始まる。競争領域は通話料金だけでなく、基本料や電話加入権などこれまでNTTの「聖域」だった分野にまで広がってきた。NTTは光ファイバーの敷設や電話網のIP化で競争力確保を狙うが、ユニバーサルサービスとして固定電話網を維持する必要があり、難しいかじ取りを迫られている。
2005年はNTT東西の料金値下げで幕開け
2005年1月1日、NTT東日本と西日本が電話料金の値下げを行った。基本料金は3級局(40万加入以上の局舎)の場合、住宅用加入電話で50円値下げして月額1700円(税別、以下同じ)、事務所用は100円値下げして同2500円とした。また、これまで月額390円かかっていたプッシュ回線を無料とし、電話明細を配送せずオンラインで確認する「@ビリング」の利用者には100円割り引くサービスを始めた。
さらに3月1日からは、一般に電話加入権と呼ばれる施設設置負担金を現行の半額となる3万6000円にする。同社は明言こそしないものの、将来的には電話加入権を廃止する考えを持っている。
NTTが相次ぐ値下げに踏み切ったのは、KDDIやソフトバンクグループが始めた新サービスに対抗するためだ。特にソフトバンクグループは2004年に日本テレコムを買収して固定電話事業に参入し、NTTを追撃する態勢を整えている。
NTTは約6000万回線ある固定電話のうち半分の3000万回線を2010年までに光ファイバーに置き換えてIP網化することで、これに対抗しようとしている。高速IP網を利用することで、これまでにないさまざまなサービスを低価格で提供できるというのだ。設備投資額は現在の同程度とし、6年間の累計で5兆円程度になる見込みという。しかし、固定電話事業の料金競争が激しくなり、これまで稼ぎ頭であったNTTドコモが減収減益となるなか、どのように財務基盤を形成していくかは不透明だ。
ソフトバンクは「おとく保証」で攻勢
ソフトバンクグループは2004年7月に日本テレコムを約1433億円で買収し、12月1日から「おとくライン」という名称でNTTよりも安い固定電話サービスを始めた。これは直収型電話サービスと呼ばれるもので、日本テレコムがNTTの局舎内に独自交換機を設置し、局舎間を独自通信網でつなぐことでNTTよりも安い価格で固定電話を提供するものだ。
基本料金は都市部の3級局の場合、住宅用が月額1500円、事務所用は同2350円となる。新規に電話を引く場合の電話加入権は不要とした。さらにNTT東西やKDDIよりも国内固定電話着信料金を割安にする「おとく保証キャンペーン」を実施し、「他社よりも安い」というブランドを武器にNTTの牙城を崩しにかかる。
ソフトバンクグループにとっては、1兆8000億円規模といわれる固定電話の基本料金市場に参入できるほか、NTT交換機を利用するために支払っている接続料を削減できるというメリットがある。ソフトバンクによれば日本テレコムは年間約730億円の接続料をNTT東西に支払っているといい、この費用が削減できる効果は大きい。ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は「日本テレコム買収の本質はここにあった」と断言するほどだ。
CMの放映や街頭での加入促進活動など、大々的なキャンペーンを行っており、「1日あたりの顧客獲得数はADSLサービスを大幅に上回っている」と孫氏は話す。ただし、具体的な加入顧客数については明らかにしていない。
KDDIはIP網化でコスト削減を図る
KDDIは2月1日より同様のサービスを始める計画だ。名称は「KDDIメタルプラス」。すでに12月より申し込みを受け付けており、予約したマイラインの顧客に対しては通話料金を割引するサービスも始めている。
基本料は住宅用が月額1500円、事務所用は同2400円。NTTやソフトバンクと異なり、級局別に基本料が分かれていないのが特徴だ。プッシュ回線サービスは無料で、電話加入権は不要。ただし開通工事費として、開始から60カ月間は月額100円の費用がかかる。
KDDIは固定電話網をIP化することで交換機にかかる費用などを削減し、料金の引き下げに充てる考え。事業所用の場合、メタルプラスやKDDI-IPフォン、KDDI光ダイレクトの契約者に対する発信が無料となる定額プランも提供する。IP-PBXなどを企業に置かずにIP電話を導入できる点をアピールする考えだ。
直収型サービスをめぐる訴訟も
日本テレコムとKDDIが提供する直収型サービスを2003年に始めた平成電電は草分け的な存在といえる。同社は2004年11月、ソフトバンクと日本テレコムを相手取り、東京地方裁判所に訴訟を起こした。ソフトバンクが2004年春に平成電電との間で買収交渉を行っており、その過程で直収型サービスに関する営業秘密を取得して日本テレコムに開示、日本テレコムはこの営業秘密を「おとくライン」に利用したと訴えた。ソフトバンク側は「情報の開示や利用事実はない」としているが、平成電電は「おとくライン」の販売差し止めを求めており、裁判の行方がソフトバンクグループの事業展開に大きな影響を与えそうだ。
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