作家の村上龍氏が、音楽・デジタルコンテンツ企画制作のグリオとともに電子書籍の企画や販売を手がける新会社「G2010(ジーニーゼロイチゼロ)」を設立する。11月4日に都内で会見を開き、今後の取り組みを説明した。
G2010は11月5日の設立予定。資本金は1000万円で、グリオと有限会社村上龍事務所がそれぞれ50%ずつ出資する。代表取締役社長にはグリオ代表取締役社長の船山浩平氏が、取締役には村上氏とグリオ代表取締役会長の中村三郎氏がそれぞれ就任する。当面は社員を置かず、実際の作業はグリオが請け負う形になる。初年度に20点の電子書籍を配信し、売上高1億円を目指す。
村上氏の作品のほか、作家の瀬戸内寂聴氏、よしもとばなな氏の作品を提供することが決まっているほか、同社が作品の質を認めた作家の作品を電子書籍化していく。「オープンな雰囲気にしたい。新人でも、作品のクオリティが高く電子書籍化する意義があると思えば出していく」(村上氏)
当初はiPhoneやiPad、Android端末向けに電子書籍アプリを配信する。すでにNTTドコモが展開する電子書籍トライアルサービスでAndroid端末向けに、よしもと氏が書き下ろしたエッセイ「Banakobanashi」の一部を配信中だ。
既刊の作品についても、画像や音楽などを使用したリッチコンテンツを配信していくとのこと。2011年1月までに配信を予定する村上氏のデビュー作「限りなく透明に近いブルー」では、当時の生原稿画像を閲覧できるという。ただし現時点ではリーダーの仕様などは決まっていないという。価格設定についても未定だが、「本は厚さや重さで(価値が)分かるが、AppStoreでは分からない。納得感のある値付けにしていく」(村上氏)とした。売上の配分については、コンテンツの内容や追加要素によって個別に設定していく。
村上氏は7月に小説「歌うクジラ」をiPadアプリ(現在はiPhoneやAndroid端末にも対応)として公開している。グリオとともにアプリを制作、販売する中で、出版社では紙の雑誌のスペシャリストが多い一方で電子書籍に精通している人間が少ないこと、特定の出版社と組むとほかの出版社が版元となっている既刊本の電子書籍化が難しいことなどが分かり「グリオのようなITベンチャーと組む方が効率的」(村上氏)と判断したという。(村上氏の設立趣意書)
また、出版社の現状については、「(電子書籍に対して)風当たりが強いと思ったが、編集者は黎明期で迷っているところ」とコメント。「出版社が縮小することがあっても、崩れることはない。取次会社の持つ流通網は優れており、書店の経営者も優秀。案外ポジティブに考えている」(村上氏)とした。
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