10月28日から29日にかけて開催されたデジタルマーケティングのイベント「ad:tech Tokyo」の初日、「コンテンツのこれから 〜テレビはこれからもポップたりえるのか?〜」と題した基調講演が行われた。
基調講演に登壇したのは、電通コミュニケーション・デザイン・センターのコミュニケーション・デザイナー/クリエーティブ・ディレクター岸勇希氏、吉本興業代表取締役社長の大﨑洋氏、フジテレビジョン執行役員クリエイティブ事業局長の大多亮氏。岸氏がモデレーター役を務め、テレビが抱える課題やネットとの関わり方、コンテンツ業界において将来求められる人材像などについて、パネルディスカッション形式による意見交換が行われた。
インターネットが誕生して以降、ネット対テレビと二項対立で議論されることの多い2つのメディア。これに対し、テレビの制作者側である大多氏は冒頭で次のように漏らした。「テレビ対ネットという構造の話にはもう飽き飽きしている。我々テレビ局の人間は、最終的にはコンテンツだと思っている。最後は人であり、面白い番組をつくれるのか否かだ」。
一方、早くからネット配信を手がけるなど、ネットコンテンツ展開に積極的な吉本興業。大﨑氏はネットメディアに対する実直な思いを次のように語った。「芸人側としてはインターネットにより出演できる場が増えたという思いがある。2009年に吉本興業主催で沖縄国際映画祭を開催したが、そこで感じたのは、笑いの質が変わったということ。ネットが登場して以降、これまでのカウンター的な笑いからシェアする笑いに時代が変わりつつある。この変化に適応するために、メディア関係者が集まってコミュニケーションの新たなインフラをつくるための話し合いの場が必要だと思う。代理店にはぜひその舵取りをしてほしい」。
一方、クリエイティブディレクターとして、ネットとテレビを融合するさまざまな新しい試みを続ける岸氏は、「新しいジャンルの開拓をいろいろ試みているが、本当に形が見えないというのが素直なところ」とその胸の内を吐露した。
これに対し、二人のパネリストからは「インフラとしてのヒットとコンテンツとしてのヒットというのは別物。インターネットのクリエイティブはその先にあるのかもしれない。そもそもネットとテレビを切り分けて議論すること自体が違うのかもしれない。テレビも50年以上失敗を繰り返してここまできている。ネットとテレビの狭間のクリエイティビティは、時間と失敗を重ねることが必要」(大多氏)、「お笑いの世界は、劇場、テレビとアナログ的にメディアの階段をのぼってきた。メディアによって作り方が違ったが、これからはそれが一気に埋められる時代になると思う」(大﨑氏)と、意見を述べた。
また、「人がコンテンツをチョイスする時代になっていく」と語った岸氏に対し、大多氏は「テレビを作る側としては、多くの人に見てもらえるという意味でオンデマンドは歓迎している。しかし、視聴者にはチョイスしないという場面もたくさんある。何も考えずにただ受身的にコンテンツを楽しみたいときもある」と反論するなど、テレビとネットの作り手の意識の隔たりを感じさせる一幕もあった。
さらに、大﨑氏は「コマーシャルのタイミングとかキャスティングの仕方とか、ネットの世界はそういうのを知らない人が多い。テレビの側からネットの側にお題を出して、協働していけば新しいサービスを伴ったコンテンツ的なものができるのではないか。バーチャルなものにリアルなものを融合してリアリティある新しいものを目指すべき。そのためにコンテンツも新しい技術もある」と提言した。
大多氏からは「テレビ側の人間にも、こういうプラットフォームを使えばもっと面白くなるとモチベーションを上げている人もたくさんいる。コンテンツとして仕上げるのではなく、“世の中が動いた”という感じを、一緒に仕掛けるみたいなひとつの企画が絶対必要」と、テレビとネットが融合したコンテンツづくりに対する協調的な意見が述べられた。
これを受け、モデレーターの岸氏は「インターネットの役割はプラットフォームとしての発達以外にもあるはず。テレビもネットもそれぞれ完成されたものをやっているが、一緒にやっていくというチャレンジが必要。これをきっかけに、テクノロジー産業、サイバー産業を含めて議論が発展していければ」と語り、セッションの最後を締めくくった。
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