電子書籍の優等生「メルマガ」の時代が来る--堀江氏が語る個人メディアの試み

鳴海淳義(編集部)2010年10月29日 19時12分

 デジタルマーケティング関連のイベント「ad:tech Tokyo」2日目の10月29日、企業の展示ブースの一角で元ライブドア社長、堀江貴文氏が自身の個人メディアへの取り組みを語る座談会が開かれた。コンデナスト カントリーマネージャーの田端信太郎氏、ターゲッティング社長の藤田誠氏という2人の元ライブドアメンバーを相手に、ブログ、Twitter、メルマガなどについて語った。以下にその発言をまとめた。

  • 座談会の様子

堀江氏:個人メディアはライブドア時代からずっと考えていたことです。ブログサービス「livedoor Blog」を開始したのは2003年の暮れですが、そのずっと前から、たとえば当時ライブドア社員だった宮川くん(現Six Apartの宮川達彦氏)は2001年くらいからMovable Typeを自分のサーバにインストールしてブログを運営していた。

 ウェブコンテンツというのは毎日、1時間ごととか頻繁に更新すれば、みんながずっと見に来てくれる。そのためにはどうすればいいんだろうとずっと模索していて、そんなときにブログってありだよねと思った。

 僕も自分でサーバにMovable Typeをインストールして、ブログを始めました。2002年くらいのことだと思います。当時はアスキーから買収したECサイトの事業があって、そのECサイトの集客のために店長ブログのようなものを始めて、いろいろな商品を紹介していたら、そこそこ成果が出た。

 これをもっと個人が使いやすいように、ウェブから簡単な個人情報をいれたらすぐにブログ作れる仕組み、要はブログのASPサービスをやればいいと思った。そういう個人向けのブログがあれば、みんなが使うようになるだろうと思って始めてみたら、本当に使うようになった。僕はいまアメーバブログを使ってますけど、これはなぜかというと別にライブドアブログでもいいんだけれど、そういう大規模なブログサービスでないと何か出来事が起こってアクセスが集中したときに絶対耐えられないからです。

  • 堀江貴文氏

書籍紹介のアフィリエイトが本屋の売上を軽く超える

堀江氏:僕はブログのアクセス数は全然見ないんです。みなさんは緻密にそういうのを考えていると思うんですけど、僕は昔から大雑把でだいたいこんな感じだろうという程度。ブログを始めてみたようと思ったときに、ダンコガイという人(元ライブドアでプログラマーの小飼弾氏)がいました。彼は書評ブロガーとしてすごく有名で、ダンコガイのブログを見てみたら、月間100万円くらいはアフィリエイトで売り上げているらしいということがわかった。

 これは僕にもできるんじゃないかと思ってやってみたら、100万円はいかないけれど、何十万円かの売上にはなった。あとサイバーエージェントがキーワード広告を入れてくれて、そのレベニューシェアを合わせるとけっこうな売上になるのがわかった。

 僕は個人的にSHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERSというおしゃれな本屋さんに出資しているんですけど、そこの売上は2カ月目で軽く超えましたね。本屋って全然売り上げてないじゃんって思いました。

 ブログで売れる本には相性があります。エンターブレインから出てる「銭」っていう漫画はめちゃくちゃ売れましたね。あと元マイクロソフトの成毛眞さんの本とかは相性がいいです。成毛さんの本もめちゃくちゃ売れて、「大人げない大人になれ!」という本は初月で数百冊売れました。

 でもブログのマネタイズに関していうと僕のレベルでその程度です。それだけだと商売にはならない。いまは1人でどれだけできるんだろうと思ってパーソナルメディアを趣味で研究している段階です。そこで次に目をつけたのがメルマガです。

  • 堀江貴文氏

メルマガで年間1億円の売上達成

堀江氏:メルマガのことはウォッチしていました。磯崎さんという会計士がメルマガを始めていたので、試しに購読してみたんです。月額840円なんですけど、けっこう面白かったし、彼はそれでそこそこ稼いでいると言っていたので、僕もやってみようといろいろ調べていたら、この業界もすごいことになっていることがわかった。一番先鋭的なのは情報商材なんですけど、インフォトップやインフォカートは手数料率が安い。

 僕はインフォトップの人にもいろいろ話を聞いたんですけど、要は彼らは情報商材屋さんのニーズに答えて、手数料を抑えて、いろんな人達に使ってもらえるようにした。たとえば佐々木俊尚さんという人はインフォカートを使ってメルマガを発行してた。でもトップページを見たら怪しいんです。競馬や占いばっかりで、一番多かったのはFX必勝法。ここに一緒くたにされるのは嫌だなと思って、それで二の足を踏んでたら、1年くらい前にまぐまぐの創業者の大川さんから連絡があった。「堀江くん、まぐまぐでメルマガ出さない?」って。「手数料率とか勉強してくれませんか?」とかいやらしい交渉をして、僕はいやらしい交渉は必ずするんですけど、それでまぐまぐでメルマガ「堀江貴文のブログでは言えない話」を始めることになりました。

 そしたら読者数がぶわーっと増えた。これはTwitterのおかげでもあります。Twitterにメルマガの感想が投稿されていたら、全部RT(引用)しました。あれは全部自分で手動でやってるんです。ブログにもメルマガの内容を多少載せたりしていたら、有料会員数が月に数百から1000人以上増えていきました。たぶん年内には1万人を超えます。会員数1万人で月間840円。グロスで年間1億円くらいの売上です。相当な収益源になることがわかってきました。これを元にどうやって広げていくかをいま考えています。

メルマガが電子書籍ビジネスの優等生である理由

堀江氏:メルマガは電子書籍ビジネスのなかで一番の優等生だと思ってます。なぜかというと、まず月額が840円。これは本でいったら新書の値段ですよ。新書って印税率がだいたい10%です。すると取り分は84円。でもメルマガの場合はむしろ発行システム側がだいたい20%、30%になっています。それを考えると、メルマガが1万部出てたら、書籍に直せば実質10万部出ているのと同じ規模なんです。さらにそれが毎月入ってくる。これは毎月新書が10万部ずつ売れて、つまり年間では100万部出てるのと同じことです。1万人に840円で売れるということは、新書が毎年ベストセラーでミリオンセラーになるということ。ものすごいことだと思いませんか。

 メルマガの制作には編集者を入れて、レベニューシェアにしてます。だから編集者も営業してますよ。最初は全部のコンテンツを自分で考えて、うちのマネージャーが一応ダブルチェックして送信していたんですけど、3カ月くらい前から編集者が入ってます。

 編集者に対して僕が原稿の要素、たとえば日記やQ&Aとかをどんどん送信して、彼が読者から来た質問をまとめたり、時事ネタコーナー用に今週起こった出来事を50〜100個くらいピックアップしてくれます。それに対して僕がコメントをつけるというやり方をしています。編集作業はかなり効率化してきました。印刷と違ってレイアウトに気を遣う必要もないし、写真もURLを貼り付けるだけでいいし、編集者も少なくて済む。メルマガは非常にいい電子出版だなと思います。

役に立つことが3つあれば読者は満足

堀江氏:書くのは大変ですが、宝島の新書編集者から、「新書というのは役に立つことが3つ書いてあれば読者は満足しますから」と言われたことがあります。読者は役に立つことが3個書いてあればお買い得だと思うらしいんですよ。

 だから僕は考えたわけです。メルマガは月額840円で月に4回じゃないですか。1通のメルマガに1個役に立つことを書いていけば、読者は満足して継続してくれるんじゃないかという仮説に基づいて、1個は必ず読者に役立つことを書こうとしています。いろいろなタイプの読者がいると思うので、ターゲットをいろいろ人たちに向けられるように、いろいろな種類のコンテンツを入れています。

 メルマガのコンテンツの内容は広くしたほうがいい。内容は雑誌的になりますけど、メルマガは雑誌と違って毎回コンビニとか駅で売るわけではなくて、新聞に近い定期購読モデル。でも新聞と違って紙がかさばらない。だからすごくいいんです。あと定期購読ってみんな辞めないじゃないですか。

メルマガの時代が来る

堀江氏:ニッチなコンテンツがどんどんメルマガとして発行されるとそれは電子書籍ビジネスになると思います。タブレット端末やスマートフォンでもHTMLメールにすればすごく読みやすいんです。誰もまだ言っていませんが、僕はメルマガの時代が来るんじゃないかと思っています。

 メルマガは実はファンクラブ的な要素も持っていると思います。たとえば浜崎あゆみは有料ブログを会員向けにやっていますが、ああいったビジネスモデルがどんどんメルマガに転化していけばいい。アーティストのファンてけっこうファンクラブに入っているんですけど、ファンクラブの会費って意外と安いんです。年間1万円取っているファンクラブってないでしょ。でもそれが有料でブログ、メルマガ両方読める、Twitterでたまに返事をしてくれるといったモデルを作ると、ものすごいことになると思います。

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