Androidの父が見据える「IoT×AI」の未来

 米国企業によるAIスタートアップの買収が盛んだ。2016年8月9日、Intelはディープラーニングに最適化したASIC(特定用途向け集積回路)やソフトウェアを手掛けるNervana Systems(2014年設立、本社カリフォルニア州サンディエゴ)の買収を発表した。ディープラーニング最適化ASICの完成を2017年に見込んでおり、IntelのAIソリューションを次のレベルに高める狙いだという。

 買収額は4億米ドル以上と言われており、モバイルOSのAndroidの開発やGoogleロボット部門の元トップとして知られるAndy Rubin氏が立ち上げた、ハンズオンタイプのVC(ベンチャーキャピタル)、Playground Global(Playground)の初めての大型エグジット案件としても話題を集めている。

 他の買収案件と異なり、Nervana Systemsはハードウェアを扱っている点がユニークだ。Rubin氏とPlaygroundはIoT×AIの領域に対し、ウェブやモバイルの次のプラットフォームとしての期待を寄せており、クラウド上のAIにつながった無数のデバイスが現実世界を満たす「IoA:Internet of Actualization(またはActuated Internet)」というコンセプトを掲げている。

Internet of Actualization(Actuated Internet)とは

 Rubin氏とPlaygroundの考えは、インターネットのポテンシャルはIoTとAIによってさらに拡張されるというものだ。現在のインターネットが扱うことのできるデータはテキストや画像など仮想世界のものに限られており、言うなれば「脳みそが瓶の中に閉じ込められた状態」だという。

 その脳みそ(AI)が身体としてのデバイス(IoT)を獲得すれば、インターネットを通じて現実世界のさまざまな対象をコントロールできるようになる。また、そうした現実世界への働きかけを通じて、テキストや画像以外のデータを得られるようになり、さらにAIが進化する。このようなコンセプトが「Internet of Actualization(Actuated Internet)」だ。

Actuated Internet — a virtuous circle of real world objects, at-scale artificial intelligence, and command and control that animates everything of value in our lives.

(出典:Android’s Founder Wants To Give The Internet A Body --NewCo Shift)

Playground設立の狙い

 Rubin氏はAndroidを開発し、モバイルプラットフォームの浸透を目の当たりにしてきた。新たなコンピューティングプラットフォームのトレンドは、1970年代のコマンドライン、80年代のGUI、90年代のウェブ、2000年代のモバイルというように、10~15年おきに誕生している。2014年にGoogleを退職した彼が、モバイルの次を考えて行き着いたのが、AIとそれによってコントロールされる世界(Internet of Actualization)だった。2015年、Rubin氏はGoogleやHPなどから3億ドルを調達してPlaygroundを設立した。

 Playgroundは、Internet of Actualizationの実現に必要なピースを作る工場になることを目指している。ピースになれる可能性を持つスタートアップに出資し、量産化に向けて手厚いサポートをしている。

 IoT×AIのプラットフォームとは、要素分解すればセンサ、AI、アクチュエータから構成される。上述のようにAIをさらに進化させるには、テキストや画像に限らないさまざまなデータを収集・コントロールするためのデバイスが必要だ。

 しかしながらRubin氏は、Android搭載スマホやロボットへの取り組みを通じて、新たなデバイスを世の中に浸透させていくことが決して簡単ではないことを誰よりも知っていた。ハードウェアのプロトタイプから量産化のステージに向けては、設計・製造・調達などにおいて無数の壁が存在し、これらを少人数のスタートアップでミスなく乗り越えていくことは非常に困難だ。

 そこで、Playgroundでは投資先のスタートアップに対して、金銭的な支援や事業戦略のアドバイスのみならず、ハンズオンで技術的なサポートもしている。オフィスにはハードウェアプロトタイピングのためのスタジオが併設されており、スタートアップはPlaygroundが抱えるエンジニアやデザイナーに働いてもらうことができる。

 経験豊富な技術アドバイザーが、将来の電子部品の技術予測に基づいた設計や調達の助言をしてくれる。量産化に向けては、中国の製造企業や大手小売店と提携している。ハードウェアスタートアップにとって至れり尽くせりな環境が用意されているのだ。

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