文部科学省は7月21日、「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」の第3回会合を開催した(第1回 、第2回 )。同会議では、児童生徒が1人1台PC環境で利用する「学習者用デジタル教科書に関する法制度の在り方や検定方法などについて、教育研究者、学校関係者、民間企業の教育ICT関係者で構成される17人の委員が委員が検討を進めている。
今回は、関係団体として、(1)2010年から学習者用デジタル教科書に関して政策などを提言してきた「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」、(2)一般社団法人全国教科書供給協会、(3)デジタル教科書の標準化を推進する業界団体「CoNETS」、(4)全日本印刷工業組合連合会――の4団体が提言するとともに委員と意見を交わした。ここでは、DiTT 副会長で慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏の提言内容を紹介する。
DiTTは、Apple Japanやソフトバンクグループ、NTTコミュニケーションズなど89社(幹事15社、一般会員74社)が参加する業界団体。2010年から、デジタル教科書の普及に向けて、コンテンツの要件検討、普及方策の検討、実証実験の企画に取り組んできた。
2011年4月に、第一次政策提言として、2015年までに「1人1台の情報端末、教室無線LAN整備率100%、全教科の学習者用デジタル教科書」の3つの目標を達成することを掲げた。2012年9月には、第一次提言で掲げた3目標の実現に必要な制度整備を提言し、試案「デジタル教科書法案」を策定している。
直近では、6月に「DiTT提言2015」として、再び「1人1台の情報端末、教室無線LAN整備率100%、全教科の学習者用デジタル教科書」の整備と、デジタル教科書を正規の教科書とすることを提言。併せて、教育環境のクラウド化、教育SNSの整備、教育ビッグデータの活用に取り組むべきだと意見している。
同日、文部科学省の検討会議の場でDiTT副会長の中村氏は、国内において学習者用デジタル教科書についての論点が、いまだに「メリット/デメリット」や「教育効果」に止まっていることに苦言を呈した。「いったいいつまで効果検証を続ければいいのか。本も新聞もデジタル化されている時代に、教科書だけ紙であることのメリットは何なのか」(中村氏)
これまでの実証研究で、教育におけるICT活用の効果については、学習意欲の向上、思考力や表現力の向上など、さまざまなデータが出ている。今後も効果検証は必要だが、「まずは学習者用デジタル教科書を広く導入して、学校現場で使いながら検証していけばよい」というのが中村氏の意見だ。同様に、紙の教科書をデジタル教科書に置き換えるのか、紙とデジタルを併用するのかについても、「現場主導で柔軟に進めればよい」を述べた。
目が悪くなる、文字を読まなくなるなど、デジタル教科書のデメリットとして挙げられている事項は、「デジタル化で教育が大きく変わることへの漠然とした不安感ではないか」(中村氏)。こうした保護者の不安も、学習者用デジタル教科書を利用するうちに払拭されるとする。
学習者用デジタル教科書を、正規の教科書として無償提供するためのコストはどうするのか。「日本は、国家財政に占める公教育支出がOECD(経済協力開発機構)の中で最低レベル。デジタル教科書の予算については、国家政策の中で議論する必要がある」(中村氏)。日本の国内総生産(GDP)に占める小中高等教育に関する支出額の割合は2.9%であり、OECD加盟国の平均3.9%と比較して著しく少ない(OECD発表「図表でみる教育2014年版」より)。
DiTTは、2012年4月の第二次提言で、学習者用デジタル教科書普及のために総額1673億円の地方財政措置が必要だと試算。早急に、長期的な予算措置と財源確保に政府全体で取り組むべきだと述べている。
検討会委員である東京国際大学 商学部教授 山内豊氏からの「学習者用デジタル教科書の質、内容はどう保証するのか」との質問に対して、中村氏は、「学習者用デジタル教科書は、単に紙をPDF化したものではなく、ICTのよさを生かして紙では実現できないような機能を持ち、内容も紙の教科書同様に品質が保証されたものであるべき」と回答した。
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