ちょっと前に書いた中国のiPad商標問題に加えて、iPhoneの商標も問題になっているとのニュースがあります(参照記事:「中国でiPhone商標権も主張 iPadに続き」)。
両者は似たような話のように見えるかもしれませんが全然違う話です。
iPadの方は、中国の会社がAppleのiPad発売よりずっと前に(おそらくは偶然に)iPadという商標を登録しており、Appleは買取契約を結んでいたつもりだったが実際には契約は有効ではなかったと裁判所に認定され、Appleの本家iPadが「偽ブランド品」として販売差し止めされてしまったという話です。
一方、iPhoneの方は、Appleは携帯電話等を指定商品としてちゃんと中国でも商標権を獲得しています。しかし、すべての商品やサービスについて権利を取っていたわけではないので、抜けていた分野の商品を指定商品としてAppleと関係ない会社が商標権を取得しそうになっているわけです。
なお、商標権は常に商品(またはサービス)とのペアで発生し、商品(サービス)が非類似の時には別の権利として扱われる点に注意してください(詳しくは本ブログの過去エントリー「【保存版】商標制度に関する基本の基本」等を参照してください。)
ところで、iPhoneの方の記事タイトルの「商標権を主張」はちょっと誤解を招く表現です。商標権を取得した会社が(iPadのケースのように)Appleを訴えたわけではありません。別の海外記事での報道によると、ある会社による照明ランプを指定商品としたiPhone商標登録出願が昨年登録前公告され、Appleが異議申立をして現在争っているという段階のようです(中国では商標登録前に3か月間、第三者からの異議申立を受け付ける期間を設ける制度になっています)。
中国でも、日本と同様に、著名商標と類似の商標や不正の目的で出願された商標は仮に先願と商品(サービス)がたとえ非類似でも登録されない旨の規定がありますが、中国商標局の審査官がこれには当てはまらない判断したということでしょう(中国では周知商標の判断は日本と違って査定時ではなく出願時なので、今現在ではなく2010年時点で中国においてiPhoneが周知商標化していたかが争点となります)。
いずれにせよ、Appleは既に携帯電話を指定商品としたiPhoneの商標権を持っていますので、この会社が照明ランプ等の商標権を取得してしまってもiPhone(電話)の販売を差し止められることはありません。とは言え、逆に、この会社がiPhoneブランドの照明ランプを販売してもAppleは差し止められない状況になり得ます(中国にも不正競争防止法はありますので差し止めできる可能性はありますが、商標権に基づいた場合よりも困難になります)。
この会社としては便乗商品を出してAppleのブランドイメージにフリーライドして儲けるか、あるいは、Appleに商標を買い取ってもらおうかという目論見でしょう。この会社以外にもおそらくは同様の目論見でiPhoneという商標を中国で出願している会社や個人が少なからずあります。
中国はひどいというのが一般的感想だと思いますが、Appleの法務もちょっと脇が甘いのではと思います。Apple規模の会社なら商標権獲得の費用などしれています(1区分あたりせいぜい数十万)ので広め広めに権利取得しておいた方がよかったのではと思います(ただし、中国では日本と異なり包括的な商品指定ができないですし、日本と同様に3年間商標を使用していないと取り消しになる制度がありますのでちょっとややこしい点はあるとは思いますが。)
編集部:本稿はブログ「栗原潔のIT弁理士日記」からの転載です。執筆者の栗原潔氏は、株式会社テックバイザージェイピー代表で弁理士。IT分野に特化した知財コンサルティングを提供しています。
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