紙とのコラボ狙う有料版「朝日新聞デジタル」が始動--iPadやAndroidアプリで魔法を操る感覚

別井貴志 (編集部)2011年05月18日 20時47分

 朝日新聞社は5月18日、PCやiPad、Android OS搭載スマートフォンで朝日新聞の記事が読める有料の電子版サービス「朝日新聞デジタル」を開始した。PCはブラウザで表示でき、iPad、Android向けにはそれぞれ専用アプリが用意されている。

 朝日新聞デジタルの購読料金は2コースに分かれる。朝日新聞を宅配で定期購読している場合はその金額に加えて月額1000円を支払う「ダブルコース」と、デジタル版のみを購読する場合は月額3800円を支払う「デジタルコース」がある。いずれも1契約(同一ID)で複数端末の利用が可能で、同居の家族も利用できる。

 購読は総合ガイドのサイトから申し込むが、いずれのコースの場合でも、決済はクレジットカードのみで、購読するためには朝日新聞社が運営する課金・認証サービス「Jpass」への登録が必要になり、JpassのIDでログインする。2011年7月末まではお試し期間として、この期間中に解約すれば料金はかからない。

 朝日新聞デジタルの最大の特徴は、「(主要見出しなどの)リストの羅列ではなく、紙の新聞のようにニュースの価値判断をして編集し“面”で表示していくことだ」(朝日新聞社役員待遇デジタルビジネス担当兼コンテンツ事業本部長の佐藤吉雄氏)とし、新聞のように面をめくる感覚にしたが、単純に紙の新聞をそのままPDFにして配信するわけではない。

24時刊(iPad)の画面例 24時刊(iPad)の画面例

 こうした面の展開をするうえで、コンテンツは3つの「刊」として配信される。24時間体制で世界の動きをリアルタイムで速報する「24時刊」、1日200本を超える朝日新聞の夕刊と朝刊最終版ニュースを編集して毎日早朝に配信する「朝刊」、ストレートニュースではなく財界やスポーツ界、文化人などのコラムを中心に配信する「You刊」がある。これら3つのパッケージはそれぞれ、大型記事目玉記事などを選択し、その関連記事なども収集して構成。独自の面として編集する。こうして編集されたコンテンツは、各端末の画面に最適化した独自レイアウトで表示される。

 このほか、機能としては以下が用意されている。

  • MY朝日新聞(MYセレクト)
    100以上のテーマがカタログとして用意されており、興味のあるテーマを5つまで選んでおくと、それに合わせた記事や情報が24時刊で配信される。
  • MY朝日新聞(MYキーワード)
    キーワードを5つまで設定しておくと、キーワードを含んだ記事を1つの面にして24時刊で配信される。
  • スクラップブック(iPad版)
    保存しておきたい記事をボタンで選ぶとサーバ上に保存される機能で、付箋機能を使ってメモも書き込める。今後はAndroidにも対応。
  • 書庫
    配信された1週間分の記事をライブラリとして閲覧できる。
  • 超速報
    大きなニュースの時は画面に自動的にテロップやポップアップ表示する(PC、iPad版)
  • 1面タイムマシン
    24時刊の1面に掲載されたトップニュースを1時間ごとに23時間前まで遡って見られる。
  • 朝日新聞記事検索
    朝日新聞本紙の過去1年分の記事を何度でも検索して閲覧できる。ただし、当日分の記事と写真や図表、動画は対象外。
  • 辞書
    朝日新聞社、講談社、小学館などの99辞書・用語集から検索できる用語解説サイト「kotobank」(コトバンク)と連係して記事の用語を検索できる(iPad、Android版)。

1面タイムマシンの画面例 1面タイムマシンの画面例

 佐藤氏は、「私たちが目指すのは紙と電子のコラボレーション。創刊から132年になる長い編集経験の蓄積と、生まれたばかりの新しい電子版が相互に補完し、発展し合う新しい時代の新しいメディアの姿をハイブリッド型メディアと名づけ、この姿への進化を目標にする」と語り、まずは来年度中に10万人の登録会員数を目指す。

 また、佐藤氏は1面タイムマシン機能を例に挙げながら、朝日新聞デジタルはもともと「ハリー・ポッターに出てくる魔法の新聞がモチーフだ」とした。機能だけでなく、デザイン面でも各所に意識されている。同氏は「現在1つの記事に最大7枚の写真を掲載できるが、写真は順次動画にしていきたい。今後テレビ機能を持つ日が来るかもしれない」と続けた。なお、面や記事に埋め込まれた再生ボタン付画像をクリック、またはタップすると、動画がそのまま再生され、拡大することもできる。

 今回の朝日新聞デジタルでは、コンテンツ面の他に、販売や営業面でも試行錯誤が重ねられたようだ。朝日新聞社取締役販売担当の飯田真也氏は「販売店は全国約3000店舗(ASA)、系統店以外も含めると5000店舗あるが、デジタルの発行に関してはこれら販売店の協力がないと成功しないと考え協議を重ねてきた。その結果、世の中のデジタル化の流れは避けて通れないと認識した上で、紙とデジタルを競合させるのではなく、双方が複合したビジネスモデルができるのではないかという結論に達した」と説明した。そして、今後の朝日新聞デジタルの営業に関しては、デジタル部門のみならず、新聞販売局も販売店も積極的に展開していくという。

 そして、一連の説明においてコンテンツや機能、販売、営業に関して、大いに参考にしたのが、先行して有料化、課金化した日本経済新聞社(日経)だという。

 飯田氏は続ける。「紙とデジタルが食い合うとは考えていない。併売していく。日経新聞をASA3000店舗で販売(日経の発行部数約300万部のうちの4分の1程度)しているので、その店舗で起きた課金に関する苦情などいろいろなケースを1年かけてじっくり研究してきた。日経の課金モデルと違うのは新聞代の徴収は従来どおり販売店で、デジタルはクレジットカードで、と分けていること。さらに、日経は新聞とデジタルを別々の組織にしたが、私どもははじめから紙もデジタルも一緒に営業展開している」

 また、今回iPhone版は登場しなかったが、アプリは既に開発しており、現在審査中だとしている。決済方法やログインIDなどの仕組みはアップルと折り合うのかという問いに関し、「審査中」として明言は避けた。

◇新聞社のデジタル課金・有料化の節目
転換点に来たメディアビジネス--オンライン有料モデルが今後の主流か
日経新聞、電子版を創刊--NIKKEI NETを継承
WSJ日本版が正式にオープン--有料課金モデルで日本のメディアを刺激

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]