文化庁の著作権分科会の法制問題小委員会の2010年度第1回会合が2月18日、開催された。
今回で第10期となる同小委だが、例年は3月に初会合が開かれているのが通例。しかし、2010年3月中の中間報告書とりまとめを目指す今期は、通常よりも前倒しでのスタートとなった。
同小委の主査には、前期に引き続いて一橋大学大学院国際企業戦略研究科の土肥一史氏が就任。委員には東京地方裁判所部総括判事の清水節氏、法務省民事局参事官の筒井健夫氏のほか、大学教授や弁護士を中心とした法曹関係の有識者計17名が名を連ねる。
今期の小委員会でも、前期に引き続き議題の中心となるのは、“日本版フェアユース”と称される権利制限の一般規定。政府の知的財産戦略本部が2009年6月に策定した「知的財産推進計画2009」では、導入を検討する項目として掲げており、2009年度中の結論を得ることが求められている。
しかし、その一方で前期の同小委では、導入の賛否について委員の間で意見が分断したことから、10月にワーキングチーム(WT)を設置。今回の会合では、WTがまとめた報告書が提示され、意見が交換された。
報告書はまず、前半に「権利制限の一般規定を導入する必要性について」と題して、現在の著作権制度の枠組が抱える権利制限の問題点や、導入の是非についての国際比較法や法社会学的、憲法学的見地などから検討した結果がまとめられている。しかし、報告書の内容について委員からは際立った意見や質問が挙げられなかったことから、今後、一般規定導入を前提とした議論を展開していく方向性の合意がなされた。
一方、報告書の後半は「仮に権利制限の一般規定を導入するとした場合の検討課題について」と題して、規定の内容や類型がまとめられている。
今回の会合で、特に活発な意見が交わされたのが“形式的権利侵害”と呼ばれる利用行為だ。つまり、実質的には権利侵害と評価できない場合であっても形式的には権利侵害に該当してしまう場合のことだ。
報告書では、これを、写真や映像の撮影にともない、偶発的に著作物がフレーム内に写り込んでしまう「その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」(類型A)、CDなどの制作過程におけるマスターテープなどへの中間複製といった「適法な著作物の利用を達成する過程において不可避的に生ずる当該著作物の利用であり、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」(類型B)、技術開発や検証の素材として映画や音楽を複製する行為である「著作物の表現を知覚するための利用とは評価されない利用であり、当該著作物としての本来の利用とは評価されないもの」(類型C)の3つに分類している。
これに対して、委員の間からは「“写り込み”ではなくて、意図的な“写し込み”の場合は、A〜Cの形式的侵害にあたるのか。不可避ではなく知覚できる場合もフェアユースなのか?」(明治大学教授・東京大学名誉教授・弁護士の中山信弘氏)、「コンピューターコードは人間が読むためのものではないが、読めないわけではない。Cにあたるのか」(弁護士で中央大学法科大学院客員教授の松田政行氏)といった意見が出るなど、今後制度設計を詰めていく上での課題が新たに示された。
同小委では、今回の会合での議論の結果を反映させた中間報告書の素案を作成し、次回会合で再度審議する。以降、中間報告書を3月中にも作成し、2010年秋をめどに制度設計を具体化する意向だ。
主査の土肥氏は「法制小委員会はスピード感もある程度社会から求められているので早めに結論を出したい」とコメント。一方で「ネットの時代は何が出てくるか予想がつかない。あまりクリアーにしすぎると対応ができない。そのあたりも考慮すべき」(中山氏)、「どの類型に当てはめるかというよりは、実態をどういうふうに分類していくかの作業。日本型の制度を考えていくべき」(東京大学大学院法学政治学研究科教授の大渕哲也氏)と、慎重な審議を求める声も聞かれた。
同小委では、そのほか「契約・利用WT」「司法救済WT」も前期に引き続き設置し、ネット上の複数者による創作に関する著作権や、間接侵害について継続審議していく。
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