文化庁の著作権分科会の法制問題小委員会の2009年度第5回目の会合が8月31日、開催された。
“日本版フェアユース”の導入を巡り、2009年4月から開催されている同委員会では、今回も7月の前々回、8月25日の前回の会合に引き続き、利害関係者を招いたヒアリングが行われた。
日本版フェアユースとは、著作物の教育および学術的利用や偶然の写真の映り込みなど公正な二次利用について、権利者の許諾なしで認めるもの。現行の法制度下では、こうした場合の二次利用については、個別規定により対応しているが、デジタル化やブロードバンド化の急速な進展など、急激な環境の変化に対応しきれなくなっていることから、“フェアユース”という概念のもと、包括的な一般規定を設けることにより、煩雑な手続きなどを簡略化し、ネットビジネスなど新たな産業の創出を図ることも狙いとしている。
今回のヒアリングで最初に答弁を行ったのは、映像関連団体。日本映画製作者連盟、日本映像ソフト協会など、国内の映像製作者団体6団体の総意として、日本映画製作者連盟事務局長の華頂尚隆氏が本制度に対する意見の陳述を行った。華頂氏は「我々映像製作者団体では、一般規定を無償利用の権利制限ととらえている。ある特定の産業を促進するために、既存の権利者の権利を犠牲にするというのは受け入れられない」と説明。さらに「一般規定によってどこまでの利用が許容されることになるのか具体的な基準が現状では明確でなく、ただですら権利侵害行為が頻発している状況で、これ以上権利者側の対応の負担が増えては困る」と、反対の意を表明した。
また、出版関連団体の代表として出席した日本書籍出版協会常任理事の井村寿人氏も「現段階では一般規定で著作権の権利範囲がさらに拡大解釈されてしまうおそれがある」と懸念を示し、「出版物の複製に関しては、現在出版業界で独自の権利処理体制の整備を進めているところ。これを利用せずして権利制限の範囲を拡大することは、我が国の知的財産政策に逆行することにはならないか。こうした仕組みを利用するというところからも考えてほしい」と意見した。
そのほか、美術関連団体の代表者からは「ネットビジネスが進ちょくしない原因は、必ずしも権利処理の煩雑さに結び付くものなのか。ビジネスそのものが成熟していないのではないか」(日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏)、「フェアユースか否かの判断は裁判によらなければならないが、ネット上の個人相手に訴訟は不可能。また、我々の団体に属している権利者というのは基本的に個人であって、そのような訴訟に対応するには負担が大きすぎる」(日本漫画家協会の松本零士氏)などの不満が表出した。
コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長の久保田裕氏は「先般の著作権法改正により、新規ビジネスを阻害する可能性のある問題については個別制限規定でカバーされており、現状で一般規定を設けてまで解決すべき問題は存在しない。将来において発生する可能性のある不確かな問題に対して、権利者にとって不利益をもたらす法制度を現時点で整備する必要はない」と述べるなど、一般規定を現時点で導入することへの疑問の声が相次いだ。
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