慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合(DMC)機構デジタル知財プロジェクト(DIPP)は3月18日、コンテンツ政策フォーラム「理想のデジタル著作権〜私が文化庁長官だったら〜」を開催。現役文化庁員を含む数名の「疑似文化庁長官」がそれぞれの政策を示した。
「道路特定財源が一般財源化した折には10%を文化予算に」と思いきった提案で注目を集めたのは、骨董通り法律事務所の弁護士で「保護期間延長問題」の熱心な反対論者で知られる福井健策氏。国家予算の0.12%とされる日本の文化予算は少なすぎるとした上で、議論の煮詰まりつつある権利登録データベースなどへの実証実験費用を道路特定財源から引き出すべき、とした。
また、現行の著作権制度がルール面、背景面などにおいて誤った認識がなされている点が多いと指摘。一般の人により正しく理解してもらうように務めるとともに、現行制度を運営する文化庁著作権課を発展的に解消し、新たに「創作振興課」「流通促進課」として改組するアイデアを披露した。
早稲田大学大学院准教授の境真良氏は「社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の強化」を提唱。特殊法人として位置づけを再定義し、国家コンテンツデータベースをJASRAC中心に構築して、放送局などにコンテンツ利用リストの提出を義務付けさせるなど、抜本的に強化することによってデータベース集中管理を実現する案を提出した。また、運営にあたっては業務内容を完全公開とし、透明度の高い運営を目指すことが必要不可欠と述べた。
一方、現行の著作権法については「放っておく」とし、コンテンツ産業調整法など別制度を作ることで著作権法にしばられないスキームを構築するとした。また、著作権法を管理する文化庁を「文化省」に格上げし、教育関連部局を「教育庁」に改組した上で情報通信、放送、コンテンツ産業を所管する専門的な組織とするべきとの考えを示した。
「文化庁の総意ではなく、あくまで個人として」と前置きした上で持論を展開したのは文化庁長官 官房著作権課 著作物流通推進室 室長の川瀬真氏。権利保護については、ベルヌ条約ほか国際水準を「遵守すべき」とし、一国だけが特別ルールを設けることに反対の意思を示した。権利権限についても、現行の限定列挙主義を維持することが適当とし、米国で採用されている「フェアユース規定」については各所の反発を招きやすい、日本になじまない制度と指摘した。
こうした考えの背景として、川瀬氏は「著作権制度を改正することでコンテンツが流通する、という根本的な誤解がある」と説明。たとえば放送番組の場合、最初から2次利用を視野に入れていない番組制作体制を引いていること(出演者本人および所属事務所の了承を取っていない、2次使用時に権利処理の難しい楽曲を積極利用している)などがあるとし、「変えるべきは法制度ではなく、制作システムや契約システムの在り方」と安易な制度改革に異論を唱えた。
各プレゼンテーションを通じて、登壇者の共感を集めたのは福井氏が掲げた「実証実験の積極的実施」。森濱田松本法律事務所の弁護士で、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事でもある野口祐子氏は「クリエイティブ・コモンズ(CC)の活動を踏まえると、実際にやってみて理解できることは多い」と評価。一方、道路特定財源など公的資金でまかなう考え方については「(道路と同じように)既得権益が生まれる可能性もある」とし、登録制度やデータベース作成などインフラ部分に限定して使用するのが適切との考えを示した。
DMC機構助教の石井美穂氏は「実証実験には賛成するが、国家プロジェクトとして展開することは疑問。国が主導すべき時代なのか」と異なる切り口から反論。文化庁の川瀬氏も、実証実験などが行われず議論のみが各地で展開される現状について、「議論が活発化することは望ましいが、定義が定まっていない。この状況で議論しても前には進まない」と苦言を呈した。
実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員の椎名和夫氏は、境氏が唱えた「著作権法は放っておく」との提案に反論。「面倒でも改築しながら対応すべき」とした。また、川瀬氏が説明した「誤解」について「実演家は価格が折り合えば許諾は出す。放送局は権利者に原因があるように言うが、必ずしもそうではない現状が少しずつ明らかになりはじめている。もっと現場を見た議論が必要」と同意する考えを示した。
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