ニッポン放送株のインサイダー取引事件で、証券取引法違反罪に問われ、全面無罪を主張していた村上ファンド前代表村上世彰被告(47)の判決公判が19日、東京地裁で開かれ、高麗邦彦裁判長は「被告人の自白調書は信用できる」などとして、懲役2年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円の判決を言い渡した。「もの言う株主」として脚光を浴びた同被告に対し、インサイダー取引では異例ともいえる極めて厳しい実刑判決が下された。全面無罪を主張し被告側は即日控訴した。
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■利益至上主義を断罪
いまやM&A(合併・買収)の世界で欠かせぬ存在となった「投資ファンド」が揺らいでいる。法を犯し自らの利益を追求したと断罪された村上ファンドにとどまらず、ブルドックソースに敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けた米スティール・パートナーズは、東京高裁の審判で株主価値を棄損させる「乱用的買収者」の烙印(らくいん)を押された。ファンドをめぐる一連の動きは、「会社は誰のものなのか」という根源的な問題を改めて問いかけている。
「強い利欲性が認められ、徹底した利益至上主義には慄然(りつぜん)とせざるを得ない」
高麗裁判長は、判決で村上被告を激しく批判した。
9日前の10日、同じ建物の中の東京高裁で、スティールが求めていたブルドックの買収防衛策差し止めの抗告が却下された。
藤村啓裁判長は「短中期的に株式転売などでひたすら自らの利益だけを追求する存在」とし、同じようにファンドの利益至上主義を非難した。
「投資家から命の次に大事なお金を預かり、運用している以上、利益を第一に考えるのは当然のこと。問題はどうやってその利益を得るかだ」。ある国内独立系ファンドのマネジャーは、自戒も込めてこう話す。
日本の企業や経営者、株主がファンドという存在と向き合うようになってから、まだ歴史は浅い。
最初に身近に感じるようになったきっかけが、経営破綻(はたん)した日本長期信用銀行(現新生銀行)を2000年に買収した米リップルウッド・ホールデイングスだ。
ファンドはバブル崩壊で痛んだ企業の再生や銀行の不良債権処理の担い手として登場したが、一方で、安く買いたたき、高値で売り抜ける手法から、“ハゲタカ”とも呼ばれた。
次にさっそうと舞台に登場したのが、「アクティビスト・ファンド」だ。株主価値の向上を掲げて経営者に積極的に提案や提言を行う一方で、ときには増配や買収などの株主提案を突き付け会社側と激しく対立し、「もの言う株主」として、存在感を高めていった。村上ファンドの退場後は、スティールがその主役を務めてきた。
もの言う株主の功績は確かに否定できない。村上ファンドが大量保有した阪神電気鉄道は阪急ホールディングスと経営統合。スティールが敵対的TOBを仕掛けた明星食品が日清食品の傘下に入るなど、結果として業界再編の背中を押した。
大阪製鉄との合併を東京鋼鉄の株主総会で否決に追い込んだいちごアセットマネジメントは、株主としての権利行使の効力を広く知らしめた。
しかし、“スティールの敗北”を契機に、その風向きも変わってきた。村上ファンド事件以降、くすぶり続けてきた「ファンド=悪玉」論が再燃する兆しも出ており、「戦略の修正を迫られる投資ファンドが出てくる」(大和総研制度調査部の横山淳統括次長)と懸念する声も聞かれる。
インサイダー取引など法律違反は論外としても、株主価値や権利行使を振りかざした利益至上主義への嫌悪感は根強い。
ブルドックをめぐる高裁の決定は、株式会社について、「企業価値を最大化し、株主に利益を分配する営利組織」としながらも、「従業員や消費者などとの経済活動を通じて利益を得ている」とし、会社は株主だけのものではないと指摘した。
もちろん、経営者や従業員、他の株主とともに企業価値を高め、利益を得ているファンドは数多く存在する。
「常に投資先がどういう形で成長できるかを考えている」
日本でも企業再生で多くの実績を挙げてきた米カーライル・グループの安達保マネージングディレクターは、「ファンド」という言葉を前に身構える経営者を諭すようにこう語る。
ファンドを一方的に排除する動きが広がれば、少子高齢化や人口減少時代に向け、M&Aや業界再編による構造改革が待ったなしとなっている日本経済にとって、大きな損失となることは言うまでもない。(佐藤克史)
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