国際的なIT企業は、ベンチャー企業を含めたエマージングな企業に対して、どのようなことを願い、どのような基準で投資あるいは買収をするのか――。11月に開催されたイベント「New Industry Leaders Summit 2006 Fall」(NILS)の「グローバルIT企業のエマージング市場・企業に対する取り組みと実際」と題されたセッションでは、Google、Microsoft、IBMの各社の投資部門担当者が参加して、それぞれの違いを際立たせている。
Googleからは本社開発部門でプリンシパルを務めるCharles C. Rim氏が、Microsoftからはアジア太平洋地域Emerging Technology & Venture Capital担当ディレクターのJohn Hummelstad氏が、そしてIBM Venture Capital Groupでベンチャーディベロップメントエグゼクティブの勝屋久氏がパネリストとして参加した。モデレーターはGeneral Atlantic LLC日本代表の本荘修二氏が務めている。
話題になったベンチャー企業YouTubeを買収して、さらに注目を浴びたGoogle。同社でプリンシパルを務めるRim氏は、その成長戦略について「内部と外部の両面で進められている。内部でのイノベーションの代表的なものがGoogle Earthであり、これは社内の人材とテクノロジーを活用したことによる」と説明。その内部でのイノベーションの進め方で他社と大きく異なるのが、「社内に、イノベーティブなサービスや商品を生み出せるアントレプレナー(起業家)を抱えている」点と語る。
「Google内部で新しいサービスを開発するときは、数人程度の小さなチームで進めている。その証拠に、現在多くの人に利用してもらっているGmailを開発したのはたった3人のチームだ」(同氏)
そうした同社にとって、買収という手段について同氏は「成長を加速させるために重要な戦略」という位置付けにあると語っている。同氏は日本と中国、韓国を担当しており、同地域では、この買収という手段が重要だと話す。
この買収という手段について他社と大きく異なるのが「企業を買収したいという要求の8割が、製品を開発するチームやエンジニアからのボトムアップで上がってくる」(同氏)という点だ。
通常、企業買収というと、対象となる企業の売上高、あるいは抱え込む顧客層を目的に行われるのが一般的と見られているが、このことに関しても同社では違う。
「Googleにとって重要な価値は、人材とテクノロジー、それにまつわる知的財産(IP)にある。われわれの買収対象となる企業は1人から多くても数十人という、スタートアップ段階にある比較的小さな会社だ。売上高や顧客に興味があるわけではない」(同氏)
その買収戦略の例外案件として同氏が挙げたのが、YouTubeだ。YouTubeは巨大なデータを持っているとともに、膨大な数のユーザーを抱え込んでいるという点を評価して買収したのだという。
Googleでは人材やテクノロジー、それにまつわるIPに対して価値を認めているからこそ、買収の進め方は対象となる企業の技術者を社内に取り入れることが主たる目的になるという。そうしたため、買収を進めていく際にも「どうやって社内に取り込んで統合していくかを慎重に検討していく」(同氏)としている。
このGoogleの対極にあると見られるMicrosoftだが、同社のベンチャー企業あるいはエマージング企業への姿勢は、やはりGoogleとは異なる。
同社のアジア太平洋地域担当ディレクターのHummelstad氏は、Microsoftが“パートナー”と認めるベンチャー企業には、(1)ベンチャーキャピタル(VC)が後ろ盾についていること、(2)エンドユーザーにプロダクトが到達できていること、(3)開発するプロダクトの実用性が証明されている――これら3つの基礎的条件が必要と説明している。
そうした同氏が、ある企業と会ってMicrosoftのパートナーにふさわしいかどうかを決める際には、あることを念頭に置いているという。
「10回ミーティングをするより1回のミーティングで決めるというスピード感があるかどうかを常に考えている。また自分の会社を大きくすることだけを考えているアントレプレナーは過ちを犯している。必要なのは両社がWin-Winの関係になることだ。そして、両社の関係は“1+1”の答えが2ではなく、3あるいは4というものが必要になってくる」(同氏)
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