成長のステップに挑むベンチャーが持つべき経営指針とは - (page 2)

岩本有平(編集部)2006年12月27日 18時10分

 今でこそ順調に成長を続ける両社だが、ビジネスモデルを確立するまでには大きな苦労があった。もともとリクルートコスモスの営業マンだった井上氏は、住宅という一生でもっとも高い買い物について、プロが情報を数多く持っているがユーザーは情報が少ない「情報の非対称性」に疑問を持ち、住宅のデータベース化によってこれを解決するビジネスを考えていた。

 しかし1995年当時、不動産情報の登録を業者がリアルタイムで行うためのインフラを構築することには莫大な費用がかかるため実現不可能かと思われた。そして、当時まだ広く一般で利用されていなかったインターネットに触れ、その可能性を信じて起業に至ったが、創業期はウェブサイト構築など受注業務をこなしてHOME'Sの開発費用を稼ぐという時期を過ごしたのだという。

 一方の高野氏は創業期の苦しみについて3つの話を挙げた。まず、サービスを考えたとき、自身の主観だけではユーザーのニーズをつかむことができなかったという。そこで、主婦のネットワークを1人1人たどっていき、ニーズを分析していった。

 また、閉鎖性の強い業界での商品調達についても、インターネットでの販売に対して理解を示さない農家とのコミュニケーションにも苦労したという。

 そして最も大きいのは起業のタイミングだった。オイシックスが創業した2000年6月はネットバブル崩壊直後。BtoCビジネスへの出資には非常に消極的な姿勢になっており、門前払いをするベンチャーキャピタル(VC)も数多くいたという。「今は多くのVCに出資頂いているが、現在株主になっていないVCには全部断られたと言っていい程VCに出向いた」(高島氏)。

 そういった創業期の「生みの苦しみ」を越えた両社が次に対面した問題が成長時期のマネジメントである。

 1997年にHOME'Sの商用サービスから3年後、ビジョンの違いから副社長と袂を分かつことになったという井上氏は、社員がビジョンを共有することを経営上の重要なポイントだととらえる。

 ネクストではビジョン共有のためにビジョンカードを作り、社員が常に所持しているが、そのビジョンカードは社員全員が話し合って作っていったものだという。「(ビジョン作成の)プロセスが重要。出来上がれば腹に落ちており、全員が言動者になって伝えていく」(井上氏)。採用の際にも、最終面接は井上氏自らが担当して、ビジョンの共有ができる人材かを判断するという。

 高島氏はオイシックスのマネジメントについて「属人的なオペレーションが多く、サービスが進化し続ける仕組み作りを苦労した」と語る。創業当初は業務のマニュアル化やシステム化がうまく行えなかった結果、離職率が高まったのだという。そこで発想を転換して、スキルを付けた社員を辞めさせないように人事制度を作り込み、社員のあらゆる業務をKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)化した。さらに、社員全員の面接を実施して、「自社をより良くするのにどうすればいいか理解できる仕組みを作った」(高島氏)。その結果、離職率は以前に比べて大幅に改善されたという。

 両社とも人材採用や業務のシステム化を進める一方、社員教育にも時間をかけている。ネクストでは企業運営、マネジメントなど経営者の視点を社員に養うための「経営塾」を開催しており、オイシックスでは新人に対して、ロジカルシンキングの練習をする「問題解決講座」を開催している。

 また、企業成長の更なるステップに踏み出す2社だが、社長という立場について、「社長の業務は価値創造であり、価値創造は『人×情熱×仕組み化』という掛け算」(井上氏)と説明する。重要なのはまず人、つまり社員であり、その次に社員のモチベーション、そしてビジネスモデルやナレッジマネジメントなど、仕組みを作ることで企業の価値を高めるのだとした。

 そして高島氏は、企業が成長する中で、小さなグループのキャプテン的な立場から、組織の監督という立場に変わるタイミングが来ることを説明し、「キャプテンが突っ走ると皆がついて行けない。監督として人の力をどう引き出すかが重要」とし、マネジメントに取り組むことの重要性をあらためて語った。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]