ダートマス大学の工学教授Victor Petrenko氏は、壁や窓にこびりついた氷を取り除くために瞬間的に電気をかける方法を考案した。特殊なフィルムでコーティングしておいた面に電気パルスをかけ、1秒以下で氷を取り除く。スクレーパーでそぎ落とすよりもずっと短い時間で除氷できる。
車の運転手ならフロントガラスが簡単にきれいになって便利だと思う程度かもしれないが、薄膜パルス電熱除氷(pulse electrothermal de-icing:PETD)と呼ばれるこの技術が広く採用されれば、大きな経済効果をもたらす可能性がある。たとえば、着氷によって損壊した送電線の補修費用を節約したり、飛行機のコクピットの窓への着氷を防いで燃料の消費量を削減したりできるかもしれない。
スウェーデンでは、土木技師がPETDのテストを行い、ウッデバラ橋の氷結を防ぐため、PETDの薄い膜で覆うことにした。
「霜のつかない冷蔵庫なら、エネルギー消費量を約半分に減らせる。毎年、冷蔵庫や空調機の運転のためにかかる費用は数十億ドルに上る。これを削減できるとすれば素晴らしいことだ」とPetrenko氏は言う。「製氷機の場合、氷を取り出すサイクルが短縮されるため、生産性を30%から40%高められる」
PETD技術を採用した家庭用冷蔵庫はまもなく市場に登場するだろう。またPetrenko氏によると、最新の商業用ジェット機のコクピットのガラスにこの技術が採用される予定だという。航空宇宙部品サプライヤーGoodrichは、Petrenko氏の会社Ice Engineeringに投資している企業で、ライセンスを受けた7社のうちの1つだ。同社はまた、風力タービンを除氷する手段として、この技術を公共事業に広めようともしている。
PETD技術は、除氷と反対の作用を起こすのにも使える。電気パルスを変化させると、氷を表面に強く付着させることができるのだ。スノーボードやスキーのための斜面で雪面の摩擦を必要に応じて増減させて、滑り具合をコントロールできる。
この技術は氷が本来持っている性質を利用する。氷は半導体で、ある条件のもとで電荷を移動させる。ただし、シリコンがマイナスの電荷をもつ電子を移動させるのとは異なり、氷が移動させるのは陽子、つまり水分子を構成する水素原子の核だ。
結果的に言えば、氷は物の表面に単に固まるのではなく、次の3通りの仕方で付着している。つまり、水素原子そのものによって結びつく、電流が流れて発生した静電気によって付着する、比較的弱いファンデルワールス力によって結合する、というものだ。
PETDは最初の2つの作用を壊すことによって除氷する。数ミリ秒間かけられた電荷は、氷を1ミクロンか2ミクロン溶かすのに十分な熱を、氷に覆われた物の表面に与える。氷が溶けると、水素と静電気による結びつきが壊れる。すると溶けた水が潤滑剤の働きをし、氷の塊がすべり落ちるという仕組みだ。
逆に氷を表面に付着させたいときは、電気パルスの長さを短くする。こうすると、いったん溶けた水がすぐに再凍結する。その結果、物の表面と氷の間の結合力が、これまで以上に強くなる。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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