最後に、第3部では「ソフトウェアベンチャーにみるアライアンス戦略〜トリプルWinのアライアンスを達成するための努力〜」と題して、IBM Venture Capital Groupのベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当である勝屋久氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーである仮屋薗聡一氏、リアルコムの代表取締役である谷本肇氏を迎えた。この3社は、下の図の通り、出資を受けたり、協業したりしている関係だ。具体的には、Lotus Notes/Dominoと連携するナレッジソフトウェアREALCOM KnowledgeMarket HAKONE for Notesを共同で販売している。
ビジネス環境が激変していることに対して、勝屋氏は「顧客のニーズがどんどん変わっているので、1社のみで常にベストなソリューションを提供するというのは無理になった。企業通しの強みを出し合いながらパートナーシップを作っていくというのが大切で、IBMは企業戦略としてこれを推し進めている」と話した。
これに対して、谷本氏は「スピードが求められるようになって、変化が激しいので、競合相手というのが、3年前に想定していた相手じゃないところから来る。そういう風だと、ベンチャーとしてもいろいろとかまえていなくてはならない」とベンチャーの立場を説明。そして、「IBMもリソース的にはやる気になればできないことはないと思うが、逆に言えばIBMという看板があるとトライアルしたけどダメでしたという失敗は許されないだろう。そのために、どうしてもスピードが遅くなってしまう」とIBMの立場も代弁した。
そのうえで、谷本氏は「そうしているうちに、IBMが目的の市場に参入しようとしてもすでに先駆者にある程度押さえられていて、IBMといえども市場に入れないといったこともあり得る。そういった触媒として、ベンチャーを使うという考えはあるのではないか」とした。
ただし、こういった環境や互いの立場を理解できていたとしても、実際に協業するにはいろいろな課題があったのではないか。これについて、勝谷氏は「3年ぐらい前に仮屋園さんの紹介で谷本さんと会ったが、最初の頃はうまく協業できなかった」と振り返った。そして、「紆余曲折はあったが、どの会社にも規模に関係なく強みと弱みがある。ナレッジマネジメントという分野のノウハウはリアルコムのほうが強かった。そこで、IBMとしてはLotus Notesをもっと活性化させるという命題もあり、強みと弱みをお互いたすきがけになって補完できるような関係を作らないと先に進まない」と協業のポイントを語った。
では、ベンチャー企業側は何を求めたのか。谷本氏はIBMと組んだ大きなメリットの1つとして「われわれ1社だけではリーチできない市場への切符をIBMがもっていた」と挙げた。
こうした2社に対して、若干立場が違うのがベンチャーキャピタルのグロービスだ。仮屋園氏は「この三角の関係の中ではリアルコムのほうとだけひもづいているかたちだ。投資先の企業に対しての株主、役員としての立場からすると、中立性をどう担保しながら深いかたちで協力していくかが重要になる」と説明した。双方が顧客獲得方法を開拓できて、双方に売り上げと利益がでるという構造を続けていければいいわけだ。しかし、「こうして成長していくと、IBMがリアルコムを買収するという戦略に変わるわるかもしれない。逆にリアルコムがIPOできたらIBMが脅威に感じるかもしれない。このパワーバランスをどのように持っていくかというのが投資家の立場で気にするところだ」とした。
それでは、3社がメリットを得られているうちはいいが、こうした3社の協業関係の中でなにか問題が起きた場合のリーダーシップは誰がとるのだろう。この点について谷本氏は、「プロの関係なので、お互い利益が相反する瞬間があることをわかっているうえで“大人の関係”を組んでいる。そうした瞬間が訪れた場合にルールを誰が決めるとか、どちらの方向にいくかといったら最後は顧客が決めることになる」と述べた。
顧客に対して付加価値を出せているかどうかということがわかりやすい唯一の評価軸だだとして、「3社がどれだけ盛り上がっても、顧客に価値が生まれないということがわかったらやめましょうということになる」とした。
こうした経験を踏まえて、仮屋園氏は「ベンチャー企業として大企業と組もうとしたときに、最初のカードで何を持ってアプローチするかが重要になる」とアドバイスした。もう少し、具体的な話として「大企業からすると、『この会社があの案件をやったのか』といった驚くようなケースを1件作らないと、ベンチャーとして大企業とイコールパートナーとして組めない。その1件を作るまでは自力でやるしかない。そうしないと、大企業側が振り向いてくれないし、話もしてくれないだろう」とした。
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