ダートマス大学のHany Farid教授は、決してJosef Stalinのファンではないが、ソ連時代に作られたStalinの修正写真が「一級品」であることは認めている。
「あれは見事な仕事だ。私はオリジナルの写真を何枚か見たことがある」とFaridは述べ、さらに、ソ連の人々は写真に写った犠牲者の姿を消すのにエアブラシを使ったりはしなかったと付け加えた。彼らのやり方は、ネガの上に新たに背景を描くというものだった。
Faridのフォトレタッチへの関心は、歴史的な写真だけにとどまらない。コンピュータ科学と応用数学を専門とする同氏は、ダートマス大学のImage Science Groupを運営している。同グループは、デジタル写真の修正/ごまかしを見破るソフトウェアの開発を目的とした米国内の重要な研究センターの1つとして頭角を現している。
同グループが開発したソフトウェアの一部は、FBIや、Reutersなどの大手メディア企業ですでに利用されている。このソフトウェアのJavaで書かれたバージョンもまもなく発表されるが、Java版は数値処理用の「Matlab」で書かれた現行製品よりも使いやすいため、写真の修整やごまかし探しにこれを利用する警察やメディア企業も増えると見られている。
Faridは、「半年以内にベータ版を発表したいと考えている」と述べ、さらに「現在のバージョンを使いこなすには、かなりの訓練をつんだ人材が必要だ」と語った。
市場調査会社Gartnerのアナリスト、L. Frank Kenneyによると、写真の修整/ごまかしは、一般に考えられているよりもはるかに多いという。例えば、Newsweek誌の表紙を飾ったカリスマ主婦Martha Stewartの出所時の写真は、頭部はMartha本人だが、胴体部分には別のモデルの写真が使われていた。また一部の人々は、ヒップホップアーティストのTupac Shakurがいまだに生きていると信じているが、これには1996年にShakurの死亡が報じられて以来、Shakurの姿を写した大量の画像が登場していることも関係している。
Kenneyによると、写真の修整/ごまかし発見用ツールの市場規模は予測し難いものの、需要はかなり大きいという。
「国家の大統領職や企業の経営権にはどれだけの金銭的価値があるか。人々は、修正/削除された部分を探ろうとはしない」とKenneyは述べ、さらに「一度記憶に染み込んだものを消すのは難しい」と付け加えた。
主要学術誌のThe Journal of Cell Biologyは、発行に回される原稿のおよそ25%に、「不適切に細工され」、再提出させなくてはならない画像が少なくとも1枚は含まれていると見積もっている。これはつまり、その画像が修正されていることを意味する。もっとも、大半の場合は、著者が背景をきれいにしようとしているにすぎず、その程度の修正であれば研究結果の科学的有効性に影響を及ぼすことはない。しかし、それでも受け取った論文のおよそ1%には研究結果に重要な影響を与える加工済みの画像が含まれており、その結果これらの論文は掲載を拒否されると、同誌のエグゼクティブエディター、Mike Rossnerは述べている。
「われわれはデータを可能な限り正確に解釈することを目標にしている」とRossnerは言う。「これら(の画像)はX線写真のなかに見つかった放射能のようなものだ」(Rossner)
警察もまたこのソフトウェアを利用して、児童ポルノの制作者を起訴に持ち込んだことがある。米最高裁は2002年に「Ashcroft v. Free Speech Coalition」裁判のなかで、「Child Pornography Protection Act(「児童ポルノ防止法)」の対象があまりに広すぎるとして、その一部を覆す判決を下していた。この判決では、実際の未成年者を写した画像だけが違法で、コンピュータを使って生成されたシミュレーション画像は違法ではないとしていた。
この判決以来、ハードディスク上で見つかった画像は人工的につくられたものだとする弁護のやり方がよく使われるようになった。
「いまでは検察側が負担を負っている。これらのケースは以前なら簡単に勝てたものだった」(Farid)
見破るための仕組み
画像の不正加工を見破るためのソフトウェアは、簡単に言うと、写真上に存在することを人間の脳が無視したり、あるいは検知できない不自然な部分を探す。
たとえば、人間は2次元の画像のなかにある光線の不規則性を無視ようにできている。ビデオゲームの3Dイメージのなかでは、光の向きを再調整することは可能だが、2次元の写真のなかで光の向きを合わせるのは難しい。ある抗議デモの現場で、John Kerry上院議員と女優のJane Fondaが肩を並べて写っている有名な偽造写真では、2つの異なる方向から光が差している。
「光線の角度が40度ずれている。こうした点は、人間の目にはわかりづらいが、コンピュータなら検知できる」(Farid)
現代の研究者は、人間が光の向きの不自然さを見逃すことを臨床実験の記録に残しているが、15世紀の画家たちは人間が画像情報を処理する仕組みを知っており、その知識をうまく利用して現実のなかでは再現がほぼ不可能と思えるような、とてもリアルな光の効果を生みだした。
「ルネサンス絵画のなかには、光の具合がまったく奇妙なものもある」(Farid)
同氏らの開発するソフトウェアは、写真のなかからAdobe Photoshopのようなアプリケーションを使って手を加えた部分を探し出す。写真を合成する場合、必ずどちらかまたは両方に手を加える必要がある。なかには、片方の人物の大きさが拡大され、もう一人のほうはわずかに向きが変えられているようなものもある。こうした変更を加えると、後には空のピクセルが残る。
フォトレタッチ用アプリケーションは、確率のアルゴリズムを使ってこれらのピクセルを色やイメージで埋め、それらをリアルにみせている。それと反対に、Faridらのソフトウェアでは同じアルゴリズムを使って、手を加えられたピクセルの周縁部を探し出す。
「われわれは、数学的・統計学的な検知から(画像の)操作の後を数量化できるかを問いかけている」とFaridは言う。「(操作された画像のなかには)自然には起こらない統計上の相関関係がある」(Farid)
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス