2005年の流行語大賞にもなったブログの浸透により、情報の発信量は幾何級数的に増えているが、情報を消費する人のアテンション(注目)は限られている。
その結果、情報のビットあたりの価値が希釈化されてデフレが起き、アンチスパムや検索エンジンのようなノイズフィルタが力を持つ時代になってきた。
ところが、Googleなどの検索エンジンはフィルタという「引き算」機能よりもむしろアテンションナビゲータという足し算機能について期待されるようになってきた。フィルタとは本来、ユーザーが望まない情報を自動的に捨てて快適なネットライフを送るようにするための技術だが、人々がフィルタへの依存度を高めるようになると、むしろユーザーのアテンションそのものを誘導するための隠れた権力として作用するようになる。実際、Googleのビジネス的な成功はこの「足し算」機能の魅力によってもたらされている。それがアテンション・エコノミーの本質だからだ。
ウェブの世界でも人口の集中する都市部ではアテンションという希少な優良物件の奪い合いが加熱してバブル化し、辺境部ではロングテールといえば聞こえはいいが閑古鳥が鳴いているという状況になっている。この格差は2006年もますます拡大していき、また同時にバブル期のならいとして、Web2.0というバズワードに寄りかかろうとする詐欺まがいの業者も大量に生まれては消えていくことだろう。
2006年は、この新しいアテンション中心のビジネスモデルへの転換を迎えて「既存アプリケーションのWeb 2.0的な焼き直し」が徹底的に見直される年になるはずだ。
Salesforce.comなど一部の先行するASP業者はユーザーに直接課金するというビジネスモデルで勝ち抜けることに成功したが、その他のエンタープライズアプリケーション分野ではこれに続く目覚ましい新展開は2006年中にはほとんど見られないだろう。
情報技術におけるイノベーションの歴史は、常に個人にパワーを与える技術がブレイクスルーとなって始まり、次第に小規模グループ、そしてエンタープライズで使えるものへと発展していく道のりを繰り返してきた。あらゆる技術はオープンに始まり、クローズへと向かう。ブログの次にソーシャルネットワークやWikiが流行したのは単なる偶然ではない。
2006年のラウンドでは、まずは小規模グループ向けアプリケーションの多くがウェブ上で無料で提供され空白を埋めていく部分にハイライトが当たるだろう。特に、WritelyやSocialtextのように、小規模グループで文書共有を行うためのさまざまなシチュエーションに特化したアプリケーションが多数発表されるだろう。
同時に、AJAXの一般化などによって「読むウェブ」から「使うウェブ」への転換が起こり、さまざまなネット上のアクティビティがクローズドな空間に閉じて行われるようになるにつれ、Googleに見えない深みのある世界が広がっていき、アテンション・ナビゲーションという必勝パターンにも変化の兆しが訪れるだろう。
「3秒ルール」といわれるように、より動物的で短気になっていく消費者の行動様式の変化に適応できず、高機能で立派だが価格もゴージャスで話題性に乏しいソフトウェアをつくり続ける企業は、去っていくアテンションをつなぎ止めることに四苦八苦し、ますます日陰に甘んじていくことになる。2006年は、あらゆる既存のソフトウェア企業にとってウェブ世界への適応度を本格的に試される受難の年になり、新興企業にとっては久々のゴールドラッシュの年となるに違いない。
The Attention Economy: The Natural Economy of the Net
Michael H. Goldhaber
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