Microsoft会長のBill Gatesが設立した慈善団体、Bill & Melinda Gates Foundationは13日(米国時間)、合成生物学の研究に4250万ドルの資金を提供することになった。合成生物学は、自然界で見られる細菌と同様の働きをする有機体を人工的に作り出すという新たな研究分野だ。
この寄付金は、カリフォルニア大学バークレー校、Institute for OneWorld Health、カリフォルニア州アルバニーに拠点を置く新興企業のAmyris Biotechnologiesに分配され、遺伝子操作された細菌を使って抗マラリア薬、アルテミシニンを人工的に生成するプロセスの改良に役立てられる。
しかし、これは単なる序章に過ぎない。この研究プロジェクトの究極の目標は、Amyrisなどの企業/団体が、合成アルテミシニンに使用されている分子の基礎(前駆体)を使って、数種類の新薬を開発できるようにすることにある。
Amyrisの創立者であり科学者でもあるJack Newmanは、「我々が行なったのは、多量の前駆体を生成可能な細菌株の遺伝子操作だ」と述べ、さらに「これらの細菌は、(合成アルテミシニンの場合と)全く同じ要領で、抗癌剤、抗ウイルス薬、酸化防止剤にも利用可能だ」と語った。
ノーベル賞受賞者のSteven Chuなど、他の科学者らは、合成生物学の技術は燃料の生成にも応用可能ではないかと推測している。一方、新興企業のCambrios Technologiesは、遺伝子操作された細菌を使って、将来、電子産業で利用できる可能性がある化合物を生成している。
カリフォルニア大学バークレー校の教授で、同分野の先駆者であるJay Keaslingによると、合成生物学の技術は有毒物質の浄化やサリンなどの毒物の中和にも応用可能だという。Keaslingは12月中に、放射性物質の収集能力を持つ細菌について述べた研究報告を発表する。
「細菌には複雑な分子を生成する優れた能力がある」(Keasling)
合成生物学では、自然界に見られる代謝経路を発見し、それをイースト菌や、アルテミシニンの場合であれば大腸菌の遺伝子情報に移植する。大半の人々は、大腸菌は有害と考えているが、分子生物学者は大腸菌を分子生物学のワークホース(使役馬)と呼んでいる。これは、大腸菌の遺伝子の配列がほぼ完全に解明されており、新世代を30分間で作り出すことが可能だからだ。
この生成の過程自体は何かを人工的に合成するものではない。その過程から生じる化合物は依然として生物学的な手段を通じて生成されているからだ。合成という用語は、この化合物が自然界では通常見られない遺伝子情報を持つ有機体から生じるという事実に由来する。一部の企業ではすでにこうしたやり方で生成した製品をリリースしているものの、そこから得られた分子は比較的少ない。
こうした研究がうまく進めば、医薬品業界に大きな変化が生じる可能性がある。アルテミシニンは、東南アジアのマングローブが生える沼地で育つヨモギから採れるもので、マラリアに対して最も高い効果を発揮する薬の1つに数えられているが、しかし安く手に入れられるものではない。アフリカにいるマラリア患者の70%にアルテミシニンを提供しようとすると約10億ドルの費用がかかるとする試算が複数出されている。
「この需要に応えるためには、ロードアイランド州(米国)と同じ広さの土地にヨモギを植える必要がある」とNewmanは述べ、これらの植物は育成するのに6カ月程度の時間がかかると付け加えた。
アルテミシニンを人工的に生成できるようになれば、このコストは約半分に下がる。さらに、それを含んだ薬品の質もいっそう安定する。また、熱帯地域の諸国には政情不安や森林破壊の問題を抱えるところも少なくないが、人工的に薬品を生成できれば、こうした問題の影響を受けずに済むだろう。
Gates財団からの研究資金を受け取る3つの組織では、この資金を使って抗マラリア薬の研究をさらに進めていく。Keaslingは研究開発を担当し、Institute for OneWorld Healthでは法制面での問題解決に努め、またAmyrisでは生産に重点を置くことになる。カリフォルニア大学バークレー校はこのプロジェクトのために、Institute for OneWorld Healthに対してロイヤリティフリーのライセンスを供与し、またAmyrisは生産した抗マラリア薬を製造原価で販売していく予定だ。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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