CEATEC JAPAN開催2日目の10月3日、「バーチャル空間は、ビジネスフロンティアか?」と題するディスカッションが開催された。Second Life参入支援や電子書籍、モバイルなど、さまざまな業界関係者が集い、次のビジネスフロンティアを探った。
まず冒頭では、コンテンツ・マネージメント技術分科会委員長の大野邦夫氏から、「ウェブコンテンツビジネスの変革が英国における新聞の発展と酷似している」との指摘があった。
大野氏のいう「英国における新聞の発展」とは、「脅かす第四階級」(フランシス・ウイリアムズ著)を踏まえたもので、第一段階:大衆娯楽路線(センセーショナリズム)、第二段階:広告収入事業、第三段階:報道主義、第四段階:言論の独立という段階がそれぞれ、HTMLによる情報配信、Googleらによる広告ビジネス、ウェブ2.0に代表される利用者からの情報発信、ユビキタスウェブ/情報家電、3Dコンテンツの登場などに対応するのではないかという指摘である。
大野氏は、この指摘が確かであれば今後ウェブは第三段階、第四段階に入っていくと想定されるため、ジャーナリズムが求められるようになるだろうとしている。
仮想世界の代表格である「Second Life」にて参入支援ビジネスを行っているマグスルの代表取締役・新谷卓也氏は、仮想世界の流れは「ホームページ」「掲示板」「チャット」といったサービスの各要素が融合したものであると指摘した。
Second Lifeとはユーザーが仮想世界を作ることのできる「プラットフォーム」であるとし、「仮想体験を通してユーザーがおもしろいと思う世界ができあがりつつある」と期待感を示した。
同社は、Second Life内での不動産事業のほか、建設事業、広告事業などを行っている。
一般的なスクリプト言語で仮想空間を制御でき、誰もが自由に仮想世界を作成できる「メタゲート」を提供するバサラの石田茂暁氏は、「アバターを自由に作成・カスタマイズすることで、仮想空間におけるアイデンティティーが確保できます。ユーザーにとっては、こういった部分が重要だと考えています」と語る。
アバターとは、仮想空間でユーザーの代わりに生活する化身のこと。これまではアバターを「選択」するケースが多かったが、これをよりパーソナライズすることが、ユーザーに重要視されているという。
イベントや体験型広告などを活発に行い、ビジネスへの展開も行っている同社ならではの指摘である。
マイクロソフト・デベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリストの鈴木章太郎氏は、WPF(Windows Presentation Foundation)やSilverlightなどの次世代のコンテンツ表現技術と、それらがもたらすビジネス変革の可能性について、多くのデモを用いながらプレゼンした。
「プラットフォームベンダーであり、テクノロジーベンダーである当社だからこそ、ユーザーがプラットフォームの違いを意識せず、シームレスに使えるようにしていきたい」と、その意欲を語った。
その基盤技術を提供することで、ウェブ2.0の先にあるリッチなウェブクライアント環境を実現するという狙いがある。
電子書籍サービス「hon.jp」の落合早苗氏によると、コンテンツ動向としては「電子書籍市場の携帯電話の伸びが著しい」とのことだ。
電子書籍市場の2006年度の市場規模は速報値で180億円、そのうちPC・PDAが70億円、携帯電話が110億円だという。市場の急速な立ち上がりに伴い、参入企業も多いという。
同氏は、ユーザーが投稿する「ケータイ小説」にも触れ、「ケータイ小説とパッケージ化された電子書籍は、ちょうど同人誌と書籍の関係のように補完関係になっていくだろう」と予測している。
マイクロソフト・モバイル&エンベデッドデバイス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャの石川大路氏は、Windows Mobileの特徴とモバイル端末動向について講演した。
同氏は「モバイルもPC的な環境に近づいていると感じています。ニーズも多様化し、セキュリティやパーソナライズなども求められています」と語る一方で、メーカーのニーズとしてスピーディーな製品化、開発コストの低減などをあげ、汎用化は不可避との見解を示した。
その上で、既存のサービスとの接続性や親和性、OSと上位のアプリケーションをパッケージ化しているWindows Mobileのメリットを語った。
一方でケータイジャーナリストの石川温氏は、アップルから発売されたiPhoneのユーザーインターフェースが優れていることに触れ、「究極のスマートフォンに仕上がっていると感じる」と語った。
ただし「PCとの補完関係にある端末というイメージが強い」とのことだ。しかし市場に与えたインパクトは大きく、「国内においても来年後半以降から本格的な戦いになるのでは」と予想している。インターフェースに革命を起こしたことは、間違いないようだ。
今回のディスカッションを通じ、バーチャル空間の可能性やユーザーインタフェースの重要性が再認識させられた。ビジネス面での発展に加え、ユーザーがどれだけその空間を気持ちよく使えるかということがより重要になっているようだ。ユーザーが集まり、メディアとなり、そこからビジネスが生まれる。バーチャル空間が大きな可能性を秘めたエリアであることは確かだろう。
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