出版業界の不況が言われて久しい。特に雑誌の売上は年々下がっており、全国出版協会・出版科学研究所の調査によれば月刊誌、週刊誌ともに市場規模は1997年にピークを迎え、その後は前年割れが続いている。1997年に月刊誌、週刊誌合わせて1兆6000億円近くあった市場規模が、2006年には1兆2000億円程度にまで縮小してしまった。
この原因の1つとして、インターネットの登場で誰でも手軽に、無料でたくさんの情報を得られるようになったことが挙げられている。では、インターネットは雑誌の敵なのだろうか?
雑誌がある特定の好みや関心を持つ読者に対して、情報を1つのまとまりとして届けられる強みを持つのに対して、インターネットはいつでもすぐに情報を届けられる即時性や、読者と直接やりとりできる双方向性といった強みがある。この2つの特性は必ずしも相対するものではなく、補完し合うことも可能だ。
特に携帯電話は雑誌を読みながらでも利用しやすいことから、両者の連携が注目されている。
では、雑誌出版社は具体的にどのようにインターネットや携帯電話を活用していけばいいのだろうか。
「会員制モバイルサイトを持つことで、雑誌の発売日にお知らせメールを送れる。これまでは書店の店頭でいかに目立つかという『待つマーケティング』だったが、『攻めのマーケティング』が可能になる」――こう話すのは、雑誌のモバイルサイトを構築・運営するケイタイ広告メディア制作部部長の河村良子氏だ。
ケイタイ広告は雑誌出版社と提携し、各雑誌のモバイルサイトを無料で構築するサービス「ケイマガ」を提供している。各サイトは無料会員制で、広告料を雑誌出版社と折半することで収益を得る。朝日新聞社「AERA」やダイヤモンド社「週刊ダイヤモンド」など現在380の雑誌がケイマガに参加しており、会員総数は20万人を突破した。
モバイルサイト制作のためのコンテンツマネジメントシステム(CMS)やアドサーバを自社で持ち、広告の配信やサイトの運営はすべてケイタイ広告が手がける。雑誌出版社にはモバイルサイトを新たに構築するコストがかからず、サイトの更新も原稿をケイタイ広告にメールで送れば済むといった手軽さが受けているようだ。
ただし、モバイルサイトをただ単純に作るだけでは雑誌出版社のメリットは低い。モバイルサイトをいかに活用し、売上の向上などにつなげるかが鍵になる。雑誌の発売日のに送るお知らせメールは、特にテレビCMや電車の中づり広告を出すほどの予算がない小規模の雑誌でも読者にアプローチできる点が好評だという。
また、読者アンケートをする動きもある。雑誌の場合、巻末にはがきを付けて送ってもらうのが一般的だったが、携帯電話で感想を送ったり、プレゼントに応募できたりするようにした。「切手を貼ってまではがきを送るという読者は少なくコアな層に偏りがちだったが、携帯電話であればより手軽に送れる。また、雑誌出版社ははがきの印刷費やデータ入力の手間がなくなる。ある会社では年間200〜300万円のコスト削減になった」(河村氏)
携帯電話を雑誌のコンテンツ作成に生かす方法もある。バイク雑誌「タンデムスタイル」では、読者が携帯電話で撮影した自分のバイクの写真を編集部にメールで送ると、雑誌のコーナーに紹介されるという仕組みを取っている。また、雑誌で紹介した商品をモバイルサイト上で販売している雑誌もある。
モバイルサイトの運営費用は広告で賄う。通常、サイトのページビューが少ないと広告主は広告をだしたがらないが、ケイタイ広告は雑誌を数多く集めることで全体の広告枠と会員数を増やし、この問題を解決した。雑誌の場合はコンテンツによって読者をセグメント化するが、ケイタイ広告の場合は会員登録によって読者の属性情報を取得し、年齢や性別、住所といった属性で読者をセグメント化して広告を配信するのだ。
「ロングテールかつセグメント可能な広告媒体だ」とケイタイ広告代表取締役社長の小野達人氏は自信を見せる。
このため、メール広告が同社にとっての最大の武器になる。性別や年代、住所などをもとに、広告主がターゲットしたい層だけに広告を配信できるようにしている。ニベア花王が男性向けの制汗剤「8×4 MEN」の広告を掲載したときには、ケイマガのみの出稿にもかかわらず男性向け制汗剤の市場で市場シェアが発売から1カ月で10%を超えたという。
課題はモバイルサイトのコンテンツをいかに充実させるかだ。携帯電話の場合、表現力が雑誌に比べて低いため、雑誌の内容をそのまま携帯電話に持ってきても読者にとっては読みにくい。携帯電話ならではのコンテンツを作り、モバイルサイト単体としても魅力ある存在にならなければ読者はついてこない。この点で、モバイルサイトを単なるツールではなく、媒体の1つとしてとらえる雑誌出版社側の視点の切り替えが必要となりそうだ。
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