水口:僕はメディアについて研究をしてきましたが、パッケージのゲームとネットワークのコンテンツというのは映画とアミューズメントパークぐらい違うと思っています。でも、ユーザーが楽しみたいときに何をするかという選択肢の中では、映画とアミューズメントパークってそんなに差がないと思うんですよね。
これは持論ですが、人間というのは持っている欲求とか本能をどう満たしていくかというときに、質的な変化を起こす者ではないかと思っています。そういう意味では「みんな何を求めているのかな」というところに原点があって、物質的なものには依存していないと思うんです。
だから、ネットワークでつながるという感覚は、人間の欲求の中で結構大きく入り込んできていると思うんです。今までゲームでつながりたいという欲求とか要望ってそんなになかったんですよね。でも、それが入り込んできた現状では、ユーザーは「お店に行ってハードとソフトを買って遊ぶ」から「いつでもどこでも簡単に参加できる」という欲求の方が大きくなるかもしれない。この欲求の矛先がどこに向かうかということを、すごく考えるんですよね。
そして、ユーザーの欲求を実現させるために自分の得意不得意を考えると、ネットワークのコンテンツの考え方は、さっきの映画とアミューズメントパークの違いのように、いい映画監督がいいアミューズメントパークを運営してマネジメントできるか? という状況になると思うんです。
内海の方がネットワークについての勘はありますが、僕は新しい才能や情熱に賭けて、育てていくという考えでいます。これは、将来的にキューエンタテインメントの大きな柱になるかもしれないですね。
内海:結局、ハードウェアとかネットの環境とかが整ってきて新しい時代になってくると、いろいろなものがこうやって重なり合ってくる。
ネットワークゲームだって、ゲームともいえるし、コミュニティともいえる。僕は「コンテンツのハイブリッド化」という言い方をしているんですが、こういった混血状態なものから次の世代がうまれてくると思います。
たとえば「着うた」にしても、あれは音楽を楽しむべきものかというと、ちょっと違います。ある意味アクセサリーですよね。そういったように、これまで違うタレントだったりサービスだったりがぶつかり合って、新しい価値やデザインが生まれると思います。
水口:だから、音楽の楽しみ方が変わったことは、僕らの中では象徴的な事件でした。iPodのようなデジタルオーディオプレーヤーが登場する前は、ほとんど多くの人がCDを物質的に保有する方がいいと思っていたはずなんですよ。僕もその1人です。
でも、ひとたびiPodを買ってiTunesを使って、という行為をしたときに、別な欲求に気づいてしまうんですね。まるで自分のヒストリーを作るかのように自分のプレイリストを作り、それを友達に見せたり、シェアしたり、というような今までとちょっと違う欲求が出てくる。
それが今までの「物質的に保有したい」という欲求を越えてしまうんですね。別にそれを打ち負かすというのではなくて、越えてしまうんです。それが混じり合うわけでもない。
そういうものって世の中にはいっぱいあって、たとえば携帯電話が普及してガムの売り上げが落ちたとか、結構いろいろあるわけです。一見関係ないようなものが何かに影響を与えてしまう。それぐらい人間の欲求ってすごくナチュラルだということですよね。
だから「次にみんな何をしたがっているのか、どうしたいのか」を考えていくのが、いつも僕らの原点です。
内海:結構、ロジックで考える部分と直感的に考えなくちゃいけない部分と、それを一応バランスをさせようという努力はしているんだけど、当たるかどうかがわからない(笑)。
取材のあと、水口氏から1本のミュージックビデオが紹介された。
「ヘブンリー・スター(Heavenly Star)」というこの曲は、11月に欧米で発売された「LUMINES II」に収録されている。
水口氏によると、地球を知らずに宇宙で育った、"今から30年後の17歳の少女"が、まだ見ぬ地球に何を想うのか? 雨や風や波がある世界はどんなにすばらしい世界(Heavenly Star)なのだろうかと、憧れている少女の歌であるこの作品は、世界の人々に受け入れてもらえるように考えたジャパニーズポップスだという。
この作品は、水口氏がプロデュースしたGenki Rocketsいうユニットによるもので、YouTubeや1up.comなどで配信され、LUMINES IIの発売前から欧米のファンを中心に大きな話題となった。現在はMySpaceでもビデオを見ることができる。
ミュージックビデオを見ながら、水口氏はうれしそうにこう語った。「ウェブに載せたら2時間後には世界中が見ている。そのスピード感はたまらないですよね。すげえなと思う。それを世界でやれるという感覚がたまらないんですよ」
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