マイクロソフトのオープンソース論

Eileen Yu (ZDNet Asia)2005年07月28日 18時54分

 オープンソースムーブメントが勢いを得ている今日では、Martin Taylorの仕事をうらやましがる人間は少ないかもしれない。

 Taylorは、Microsoftのプラットフォーム戦略担当ゼネラルマネージャとして、Microsoftへの反感に対処しながら、同社製品の魅力を伝えている。状況は厳しいが、Taylorは相変わらず、オープンソースソフトウェアよりもMicrosoft製品のほうが顧客に大きなメリットをもたらすと確信しているようだ。

 Taylorによれば、Linuxなどのオープンソースツールを試験的に導入した企業の間では、導入以前に考えていたよりもコストがかかるとの認識が広がり始めているという。

 「Linux人気が急速に高まった結果、よい情報だけが先走り、所有コスト、信頼性、セキュリティといった実際的な問題は後回しになる傾向があった」とTaylorはいう。「しかし、Linuxの導入から2、3年が過ぎ、コストや信頼性の問題が浮上するにつれて、企業は基本に立ち返って、プラットフォームを評価/選択する必要がると考えるようになっている」(Taylor)

 TaylorはZDNet Asiaのインタビューに応じ、オープンソースアーキテクチャを「不安定」と呼ぶ理由について、またMicrosoftに「多少の痛み」をもたらした問題について、自らの持論を展開した。

--この半年間は、どのような点に留意して開発活動に取り組んできましたか。

 ここ2年間と同じです。企業はどのような場合にLinuxに関心を持つのか--こうしたシナリオを分析することで、当社の製品が市場のニーズに即したものとなっているかどうかを確認することを最優先してきました。

 研究所では引き続き、オープンソースソフトウェアを分析/調査し、競合製品の理解に努めています。また、短期的あるいは長期的な視点からみて、当社の開発活動が正しい方向に向かっているかどうかにも留意しています。

 どんな技術であれ、企業が新しい技術を導入してから、それをアップグレードするか、それとも別のプラットフォームに乗り換えるかを検討するまでには3、4年はかかる、というのが業界アナリストの一致した意見です。絶対とは言い切れませんが、ほとんどの場合、これは真実でしょう。企業は半年ほど前から、この段階に達しているようです。3、4年前に、コスト削減を期待してLinuxなどのオープンソース技術を導入した企業は、当初の予想よりも多くの労力がかかっている事実に目を向けるようになっています。

 また、企業は(オープンソース技術の)移植や拡張が思っていたほど容易ではないことにも気づき始めています。たとえば、旅行予約の約90%をポータルサイト経由で受注している米国のFlyi.comは、以前はLinuxとApacheでシステムを構築していました。

 このシステムは、しばらくは順調でしたが、サイトへのアクセスが急増すると、動作が不安定になり、ダウンタイムに関わるさまざまな問題が浮上しました。同社はシステムをアップグレードし、新しいサーバ、ハードウェア、メモリ、技術を追加して、顧客データベースのトラッキング機能を強化することにしました。ところが、これが非常に複雑な作業となり、既存のLinuxアーキテクチャにほころびが出始めました。

--Linuxやその他のオープンソースインフラには、具体的にどのような問題があるのですか。

 オープンソースソフトウェアを使ってシステムを構築/設計することは可能ですし、運用には何の問題もないはずです。問題が生じるのは、新しいサービスを追加しようとしたときです。この種のプラットフォームは不安定なので、何か新しいものを追加しようとすると、別の場所で問題が起こります。これは当社の実験環境でも日常的に見られる現象であり、同様のことは顧客のシステムでも起きています。これはシステムの総所有コスト(TCO)に影響を及ぼします。

 オープンソースのインフラは、顧客が思っている以上に手間のかかるものであり、システムの拡張も困難です。もちろん、通常の運用には問題はありませんし、その点に異論を唱えるつもりはありません。しかし、モジュールを追加しようとすると、(管理は)はるかに煩雑になります。ゼロからやり直さなければならないこともあります。当然、それはコストに跳ね返ってきます。

 オープンソースビジネスに関する議論も増えています。これは今に始まったことではありませんが、近年、その傾向はより顕著になっています。この議論の主役はオープンソースコミュニティや、オープンソースソフトウェアの開発に取り組んでいる何百万人もの開発者ではなく、Linuxビジネスを推進しているRed Hat、Novell、IBMといった企業です。これはある意味では、ユーザーの利益になることかもしれません。物事の白黒が明確になり、重要なテーマについて、これまでよりもはるかに公平な議論を行うことができるようになるからです。

--では、コミュニティへの貢献とか、ソースコードを閲覧/利用/変更できるといったオープンソースの理念が、これほど多くの人々の心をつかんだのはなぜでしょうか。オープンソースが支持されているのは、Microsoftに対する反感の裏返しにすぎないのですか。

 まずは、あなたのいう「人々」が誰なのかを明らかにする必要があります。ほとんどのIT専門家は、システムレベルのソフトウェアの保守に関わりたいとは思っていません。ソースコードを閲覧できるか否かというのは興味深い視点だと思いますが、人々がWindows、Linux、あるいはBSDを利用するのは、あくまでもビジネス上の問題を解決するためです。

 そもそも、オープンソースとは何なのでしょうか。あなたはオープンソースの定義のひとつとして、ソースコードを閲覧できる点を挙げました。しかし、当社もソースコード公開プログラム(「Shared Source Program」)を通して、主要製品のソースコードの最大65%を公開しています。国内外の政府機関を対象としたセキュリティプログラムでは、政府からの要請があれば、さらに多くのソースコードを開示しています。このように、当社はオープンソース企業ではありませんが、ソースコードを公開しています。

 では、オープンソースとはさまざまな人が技術開発に参加することで、コミュニティに貢献するプロジェクトである、という定義についてはどうでしょうか。当社は「Windows Install and Template Library」を公開し、Microsoftの技術をオープンソース化するプロジェクトを進めています。では、当社はオープンソース企業なのでしょうか。それとも、GPL(GNU Public License)の下でライセンスを提供していなければ、オープンソースとはいえないのでしょうか。もし、それがオープンソースの唯一の定義であるなら、私はオープンソース企業と呼ばれていながら、GPLの下でライセンスを提供していない企業をたくさん知っています。

--GPLはオープンソースコミュニティで話題となっている問題のひとつです。GPLが改正されれば、オープンソースコミュニティのあり方も変わると思いますか。

 GPLは非常に複雑なライセンスで、その内容については広範な見直しが進められています。私にはGPLの文言をうんぬんするほどの知識はありませんが、どのようなアプローチを取るにせよ、次のような点が重要になると思います。

 ひとつは、ライセンスを供与された企業にある程度の免責と保護を提供することです。

 ライセンスを供与された個人または企業は、その技術に対する特許や著作権の請求から完全に保護されなければなりません。これはソフトウェアライセンスの大原則であるべきです。

 もうひとつは、ライセンスを供与された人々がその技術を使って利益を上げ、新製品を開発することを認めることです。ISV(独立系ソフトウェアベンダー)なら、その技術を利用して新製品を開発/販売できるようにするべきですし、再販業者や流通業者ならば、その技術を新製品の開発や営利活動につなげられるようにするべきです。これは活気あるエコシステムの構築を促すだけでなく、知的財産権を保護することにもつながります。

 特許は技術を保護するだけでなく、その技術を応用し、新たな革新を生み出すことも可能にするのです。

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