通信業界に迫り来るオープンソースの波

Ben Charny (CNET News.com)2005年06月16日 17時51分

 ドットコムバブルの崩壊から5年、世界はふたたび、ある若手技術者に熱い視線を送っている。この血気盛んな若者は、自社のソフトウェアによって、時代遅れの産業を一変させるつもりだ。

 Mark Spencerが経営するDigiumには、バブル時代にネット長者を夢見た多くの人々に欠けていたものがある--それは利益だ。Digiumの年間売上高は約1000万ドルに上り、同社のオープンソースソフトウェアには、AT&Tといった大企業も関心を寄せている。

 Digiumは企業の高機能電話交換機の心臓部に採用されているAsteriskというLinux用オープンソース・アプリケーションを開発している。このソフトウェアを使えば、通常は数十万ドルもする電話交換機の機能を、ノートPCの価格で実現することができる。

 Digiumはオープンソースソフトウェアの商用ライセンスを販売することで利益を上げているが、最近は新たな競争に直面しているという。先日、SpencerはCNET News.comのインタビューに応じ、この問題やオープンソースが通信業界に与える影響について語った。

--あなたは以前、Asteriskについて次のように述べています--「ジニー(精霊)はすでに瓶から飛び出した。これは変えようのない事実だ」。これはどういう意味でしょうか。

 これまで、通信産業ではプロプライエタリなソフトウェアを好む傾向が強くありました。音声通信の分野では、オープンソースソフトウェアが圧倒的に不足しています。

--あなたは自らの使命を「究極の資本主義」と表現していますが、これはどういう意味ですか。

 資本主義というのは、大がかりな「モノポリー」のようなものです。ただし、このゲームでは特定のプレイヤーが勝者になってはいけない。資本主義は競争のシステムであり、プレイヤーが競い合うことで、最終製品の質が向上(し、価格は低下)するからです。オープンソースの世界では、プレイヤーは絶えず競争力を高めようとします。新しい機能を追加しても、あっという間に他のプレイヤーに取り入れられてしまうからです。息をついている暇はありません。開発の成果は直ちに共有されるため、休むことなく革新を続けなければならないのです。

--プロプライエタリ・ソフトウェアについてはいかがですか。これらのソフトウェアは、開発の成果を独占していますね。

 オープンソースは競争のサイクルを早めています。この競争について行くためには、大変な努力が必要です。一方、プロプライエタリなシステムでは、新機能を追加できるのは開発元の企業だけですが、その一方で、拡張性も期待できません。これに対して、オープンソースは再販業者が短期間でカスタマイズを行い、新機能を追加することが可能です。

--通信業界はオープンソースを受け入れる準備ができているのでしょうか。

 プロプライエタリ・ソフトウェアがなくなるということはありませんが、電話の市場はオープンソースに適した特徴も備えています。そのひとつは市場規模です。通信市場は巨大なマーケットです。もうひとつの特徴は利用者の技術力です。この分野の人々は、その他の市場と比べて、はるかに高い技術力を持っています。

--最終的に、Linuxは通信市場でどのような位置を占めることになるのでしょうか。

 パーソナルコンピュータの歴史を思い出してください。1980年代には、PCにできることは限られていました。表計算と文書処理くらいです。ところが、現在ではスーパーコンピュータですら、AMD 64アーキテクチャとLinux上で動いている。プロプライエタリなアーキテクチャの大半は傍流に追いやられています。Asteriskも同じような変化を起こすことになるでしょう。

--PBXアプリケーションの開発者はそう多くありません。それにも関わらず、Asteriskが新機能を迅速に開発できるのはなぜですか。

 問題は利用者の技術水準です。私は1998年にIMクライアントを開発しましたが、このクライアントは人気が高く、ユーザー数は約200万人ともいわれています。しかし、開発に参加し、オープンソースコミュニティに貢献してくれる人は数十人しかいません。これに対して、Asteriskのインストール数はまだ20万ほどですが、開発協力者は300人に上っています。

--インターネット電話プロトコルとしては、SIP(Session Initiation Protocol)が高い人気を誇っています。あえて、IAXという独自のプロトコルを開発したのはなぜですか。

 IAXが完成したとき、SIPはすでに存在していましたが、広く普及しているというわけではありませんでした。IAXはSIPの対抗馬として開発されたわけではありません。SIPは電話をかけるだけでなく、他にもさまざまな機能を備えています。しかし複雑であるために、なかなか普及しませんでした。SIPの仕様書は2000ページを超えています。なぜこのようなことになったのか、私には想像もつきませんが、もっとシンプルなプロトコルを求めている人々がいることは確かです。

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