A・ハーツフェルドが語る「Macの誕生と、その他の物語」(中編) - (page 3)

--Macファンは狂信的といわれることがあります。「カルト・オブ・マック(Macという宗教)」とは何でしょうか。

 「カルト・オブ・マック」とは・・・つきつめれば情熱だと思います。その源にあるのは、Appleのデザイナーと、その他の社員の情熱です。Appleの社員は自分の仕事に情熱を持っている。Macのデザイナーは、何よりも自分が欲しいと思うものを作っています。それが最大の鍵です。自分が一番欲しいものを作るなら、顧客を研究する必要はありません。自分の内面に耳を傾ければいいのです。読みを誤る危険性はありますが、製品の完成度がきわめて高くなることは確かです。

 あるいは、「愛」という言葉の方がしっくりくるかもしれません。愛をこめて作った製品は、ユーザーにも愛されるのです。

--Appleは今も、情熱を失っていないと思いますか。

 もちろんです。Steve Jobs・・・彼の武器は情熱だけです。

--業界全体ではどうでしょう。

 業界も同じです。オープンソースを見てください。オープンソースに関わっている人の大半は、金のためにやっているのではない。Eric Raymondは「かゆいところに手が届く」と表現しましたが、これも同じようなことをいっています。優れたプログラムの背後には必ず、情熱を持った人間がいるのです。

--PC業界が抱えている課題は何だと思いますか。

 最大にして最重要の課題は、Windowsの悪夢が終わった後の世界を、正常な姿に戻すことです。すでにその兆しは現れています--Wintel帝政はまだ幕を下ろしてはいませんが、その寿命は尽きつつあり、その終焉を予見することができます。私は今よりもはるかに公平で、自由で、活気あるソフトウェア産業の誕生を期待しています。問題はロックイン(囲い込み)と価値がどこで生じるかです。価値はバリューチェーンの上流に移動し続けており、まずはハードウェアがMicrosoftによってコモディティ化され、今度はOSがコモディティ化されました。これは仮定ではなく、すでに起きたことであり、問題はそれがどう表面化するかです。Microsoftがこの変化にどう反応するのか、私は大変興味をそそられています。

 すでにMicrosoftの支配が弱まりつつあることは実感できますが、同社の影響力は依然として絶大です。Microsoftは新たなパラダイムを受け入れるのか、あるいは抗うのか--それは分かりません。答えが出るまでに、あと2年はかかるでしょう。Microsoftがデジタル著作権管理とセキュリティを使って、これまでとは違う階層で囲い込みを行おうとしていることは明らかです。人々はMicrosoftの術中に陥ってしまうのか。その答えは私には分かりませんが、フリーなソフトウェアを基盤とする、共有されたインフラが登場することは間違いありません。この大きな変化を顧客、開発者、そして企業のすべてが満足できる形で実現することが、すべての人にとっての課題だと思います。

 もう一つの課題は、ネットワーク革命をさらに推し進めることです。いつでもどこからでもネットワークに接続できるようになれば、コンピュータの利用方法は大きく変わります。この変化が始まってから10年--われわれはまだ変化の途上にあります。PCが主役の時代はほぼ終わりました。今度ユーザーの世界の中心を占めるのは、さまざまなデバイスを結ぶネットワーク・レポジトリです。これからの5年、10年は、異なる生態系が入り交じり、新たな体系を模索する時期となるでしょう。

(後編に続く)
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