--この20年間を振り返ると、PCは大きく変わったと思いますか。それとも、ほとんど変わっていないと思いますか。
両方です。ハードウェアの分野では大きな変化がありました。ムーアの法則が予測していたこととはいえ、それを目の当たりにすると、感嘆せずにはいられません。私がふだん使っているコンピュータは、初代Macの実に8000倍のメモリを積んでいます。初代Macに比べると、ハードウェアの性能は飛躍的に向上しました。夢のような話です。これに対して、ソフトウェアにはがっかりさせられます。Macintoshの登場以降、基本ソフトウェアはのろのろとしか進化していない。ユーザビリティの面では、後退したといっても過言ではありません。
--インターフェースのメタファーはほとんど変わっていませんね。
その通りです。変える余地がないわけではありません。問題は業界の硬直化--つまり、Microsoftが市場を独占し、革新を退け、新しいアイディアに報いるどころか、それを封じ込めるような環境を作り上げたことです。要約すれば、それがこの10年間にPC産業で起きたことです。
--Mac OSをライセンスしなかったのは失敗ですか。
間違いありません。しかし、これは知る由のないことでもあります。コントロールと閉鎖性はAppleのDNAです。もしMacがオープンであったなら、何がどうなったともいえないほど、状況は変わっていたでしょう。
それでも、私はオープンであることを支持したいと思います。Macは閉鎖的だったといわれますが、確かにある程度はそうだったかもしれません。たとえば、新しい基盤を取り付けるといったことはできませんでした。でも、ソフトウェアの観点からすれば、Macは当初から非常にオープンなシステムでした。オープンAPIを推進したのもMacです。オープンソースでこそなかったものの、われわれはMacをオープンなシステムだと考えていました。でも、Macのオープン性はライセンスを許可し、ソフトウェア事業の構築を可能にするようなものではなかった・・・当時のAppleには、それが合理的な判断だとは思えなかったのです。後になって、それが正しいことだと気づいても、方向を転換するのは危険でした。Appleにとって、それはとてつもなく難しいことだったでしょう。私にいわせれば、高価格路線を続けたことの方が重大な過ちです。このためにMacのプラットフォームは広がらず、後にさまざまな問題を引き起こすことになったのですから。
--1984年の発売当時、2500ドルというのはかなり高額な感じがしました。
そうです。(この本に)「Price Fight」というエピソードが登場しますが、われわれは1500ドルくらいを想定して開発していたので、裏切られたような気がしました。
--AppleがiPodのオープン化を拒んでいることをどう思いますか。
同じです。FairPlayをライセンスしなかったのは、Appleにとって大きな失敗だと思います。つきつめれば、重要なのは顧客に敬意を払うことです。Appleはこれらの製品を囲い込むことで、顧客を軽視する姿勢を外部に示しているのです。
--Appleは変わると思いますか。
分かりません。この件について、Steve Jobsと話をしたことがありますが、彼は必要性を感じていないようでした。強力なライバルが登場しない限り、Appleは変わらないでしょう。
--Microsoftはどうですか。
だめです。Microsoftのビジネスモデルというのは、たとえばMedia Playerシリーズのように、自社のソフトウェアをさまざまな企業にライセンスすることですからね。Microsoftが別の企業と組んで、完成度の高いハードウェアを開発することはありえますが、しょせんは別企業ですから、ハードウェアとソフトウェアの統合には限界があります。Appleの大きな強みは、ハードウェアとソフトウェアを同時に扱うことができる点にあります。
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