--世界を変える仕事をしているという感覚は強かったのですか。
Steve Jobsに始終、そう吹き込まれていましたからね。この手のことは、いうのは簡単ですが、たいていは誇張です。第一、「お前は世界を変えるのだ。歴史を変えるのだ」などというのは、ほとんどの場合・・・ねえ。Macのエンジニアは賢い人々でしたし、Steveの言葉を少し斜めに見ていました。7回もごまかされれば、8度目には少し用心するものです。でも大筋では、メンバーはSteveの言葉を信じていました。
もうだめだと思うときもありました。でも1982年のある晩、11時くらいだったでしょうか、いつも通り残業をして、外を歩いていたとき、夜空を見上げ、こう思いました。「ああ、自分は今、とてつもなく重要な変化を起こそうとしているんだ」。われわれはパーソナルコンピュータというロマンを愛していました。メンバーの多くはApple IIの熱烈なファンで、Apple IIに欠けているのは使いやすさだと考えていました。そこでわれわれは、Apple IIの値頃感はそのままに、普通の人でも気軽に使えるコンピュータを、しかも立ち上げるのが楽しみで、使っていてわくわくするようなコンピュータを作ろう--そうすれば、特別な何かを生み出すことができると考えたのです。
--理想を実現するためのソフトウェアを、すべて詰め込むのは大変だったのでは。
その通りです。初代のエンジニアリングマネージャーだったRod Holtは、9ポンド入りの袋に10ポンドのブツを詰め込むようなものだと辛辣なジョークを飛ばしていました。メモリ不足は永遠の課題でした。十分なメモリがなかったので、創意工夫をこらさなければなりませんでしたが、それでもぎりぎりでした。
--どんなものを犠牲にしたのですか。
Toolboxからはさまざまな機能を切り捨てざるをえませんでした。コードの一部もROMからディスクに移しました。ディスク容量はあまり大きくなかったので、起動用ディスクを用意するために、ディスクのさらに10%を消費しなければなりませんでした。実際、Macのお披露目でデモに使われたMacは、(128kではなく、後に出る)512k仕様のものです。メモリに余裕のあるMacintosh512kが登場するまでは、何とかこのメモリでふんばり、プラットフォームを確立する必要がありました。
--MacがLisaよりも成功したのはなぜですか。
それはMacが、Apple本来の精神とビジョンに帰るものだったからだと思います。これに対して、LisaとApple IIIは成熟しようとするAppleの象徴でした。
Appleの社員は優秀で個性的な人々でしたが、必ずしも大企業に務めるタイプではありませんでした。社内には反逆精神がみなぎっていました。しかし、Appleは大企業になりつつあり、経験豊富なマネージャーを採用し、大規模なプロジェクトに取り組んでいました。Lisaの開発には100人以上が関与していました。Lisaが発売される頃には、Lisa部門の人員は300人を越えていたと思います。
これに対して、MacはどちらかというとAppleのルーツに帰るプロジェクトでした。Macが成功したのは、情熱と才能とやる気にあふれたメンバーが、自分のすべてを捧げていたからだと思います。Lisaにもそうしたところはあったかもしれませんが、もっとずっとビジネスライクで、情熱の対象というより、仕事のひとつにすぎませんでした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力