--恐怖心によってADTが悪化するとのことですが、これは具体的にどういうことでしょうか。
恐怖心が極限に達すると、人間の脳は生き延びるために大半のリソースを使います。サバイバルモードになるのです。脳の全ての細胞を動員して、殺されないように万全を期そうとします。また、アドレナリンとコルチゾールが一気に溢れ出し、思考が二者択一的になって、白か黒か、オンかオフか、上か下か、というふうにしか考えられなくなってしまいます。
この状態では、柔軟性が失われます。柔軟性とは、グレーの微妙な濃淡を見分ける能力、不確実な状態に対処する力、ユーモアのセンス、新しい考えを思い浮かべる力などを指します。サバイバルモードに入ると、これらは全てどこかへ行ってしまい、ただ目の前の問題を解決したくなります。そうしなければ、自分がやられてしまうからです。虎に追いかけられている場合はそれでもいいのですが、たとえばIBMで普通に働いている場合にそれでは困ります。
--組織全体がADTにかかった状態になることもあり得ますか。
はい、もちろんです。会社中が株式取引所のような状態になることも考えられます。
株式取引所では、全員が駆けずりまわり、Bloombergの端末に目をやったり、株価の変動を確認したり、全ての問い合わせに応じようとしています。全員がどんな刺激に対しても、それが一大事であるかのように反応します。そして誰も戦略を持っていません。もしあるとしても、その戦略は毎日変わります。
株式取引所では全員が駆けずりまわっています。しかし実のところ、彼らは市場の気まぐれに動かされているに過ぎません。自分たちは一生懸命働いており、とても生産的だと、本人たちは思っているかもしれませんが、実はそうでもないのです。彼らは確かに忙しくしていますが、物事を深く考えているわけではありません。
--ADTになりやすい職業というのはありますか。
どの企業でもそうだと思いますが、特に今の時代は、グローバルな競争の影響を受けるところが大変でしょう。また、医者も医者なりに忙しくなっています。たくさんの患者を相手にし、山のようなデータに目を通し、大量の書類作りに追われています。弁護士も同様です。
また、世のお母さん方もADTになり得ます。子供をあっちからこっちへと連れ回し、そのための予約を入れ、宿題を見てやり、サッカーの付き添いに出かけ、さらには洗濯や買い物までしているのです。
--ハイテク企業には、熱心にガジェットを買っているADT患者がたくさんいるように思えますが、いかがですか。
そうですね。ただし、彼らはそういうガジェットにノーということもできます。私が彼らを大好きな理由はまさにそこにあります。彼らは遊び心に溢れています。遊ぶことはADTを治す薬の1つです。彼らはADTの状態から抜け出したり、それを回避することもできます。この分野で最も大きな苦しみを味わっているのは、技術オタクの創造力を持たない人たちで、彼らは単に力ずくで進んでいるだけといえるでしょう。
--ADTと世代は関係あると思われますか。今の子供たちにとって、電子メールや携帯電話などは生まれたときからずっとあったものです。子供たちは、われわれ大人よりもうまくこの問題に対処できるようになりませんか。
今の子供たちが働くようになる頃には、こうしたツールをわれわれよりも上手に使いこなしているかもしれません。でも、原則は変わらないと思います。つまり、自分の時間と注意力をどう使っていくかは、将来も重要だということです。何に対して、どのくらい長く注意を向けるかによって、本当に大きな違いが生まれます。もし、些細な電子メールの処理に自分の時間の大部分を使っているようなら、それは時間と知的エネルギーの浪費です。これは情報化時代の最も大きな罠と言えるでしょう。生産的で創造的な仕事をしているつもりになれますが、実際はそうではない。ハムスターのように同じところを走り続けているだけです。
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