これは情報化時代における最大の皮肉といえるかもしれない。
電子メールやインスタントメッセージ、携帯電話、ボイスメール、BlackBerryなど、さまざまな通信手段を通じて押し寄せてくるあらゆる情報が、実は人間に悪影響を及ぼしている可能性がある。
Dr. Edward Hallowellは、過去10年以上にわたって注意力欠如障害(Attention Deficit Disorder:ADD)の研究を続けてきた精神科医だ。同氏はADDに関連して発見した別の問題--注意力欠如特質(Attention Deficit Trait:ADT)と同氏は呼ぶ--が今、企業社会のなかで大流行しつつあるという。ADDと違い、ADTは先天的なものではない。これは現代の職場環境の産物だと同氏は主張する。コンピュータや電話、そして他のさまざまなハイテク機器から、絶え間なくしかも容赦なく情報が流れ込んでくるために、人の知力が弱まったり、ADTになってしまうというのだ。
かつてハーバードメディカルスクールで教鞭を執ったこともあるHallowellは、先ごろCNET News.comのインタビューに応じ、ADTについて説明するとともに、どんな時に休息を取ったり、電話を切ったり、休暇を取ったりするべきなのかについて考えを披露した。
--ADTとはどんなものですか。
ADDの一種と言えます。ただし、ADTは現代生活の結果生じるものです。つまり、あまりに多くの情報がありすぎて、それを受け入れたり処理したりすることに忙殺されるため、気が散ったり、イライラしたり、衝動的になったり、落ち着きを失ったりすることが増えます。また、そんな状態を長く続けていると、仕事の成果も上がらなくなります。別な言い方をすれば、一度にたくさんのことをやったり、あるいはやろうとするために、効率が犠牲になるとも言えます。お手玉で、自分が扱える数よりも1つ余計に玉をさばこうとしているようなものです。
--どんな兆候が現れますか。
たとえば、自分の潜在力を十分に出し切って仕事をしていない。本当はもっと生産的になれると思いながら実際には生産性が落ちている。仕事の結果が示すよりも自分は利口だと思う。人からの質問に、普段よりも薄っぺらな言い方で性急に答える。新しいアイデアが枯渇する。仕事の時間が延びる一方で、睡眠時間は短くなる。身体を動かすことも少なくなり、友人と一緒に過ごす自由時間も減る、などが考えられます。一般的には、仕事にかける時間が増えていながら、逆に全体的な成果は少なくなっている状態と言えます。
--ADDとは別にADTがあると気付いたのはいつでしたか。
私のもとへは、ADDの検診を受けようと、非常にたくさんの患者が来ていますが、なかには休暇に出かけたり、リラックスできる状況になると、全く症状が現れなくなる人がいるのに気付きました。こうした患者はADDには当てはまらないのではないかと思ったのです。
ADDの場合は、症状が消えることはありません。どこへ行こうと同じです。そこで私は、環境の変化で症状が消える人たちは、職場環境のせいでそうなったのだという考えに思い当たりました。彼らの場合は、仕事に出かけると症状が現れ始めます。彼らは仕事で何か問題を抱えているのです。その問題とは、過剰な負荷です。
--どの時代の人間にも、仕事に集中できないことはあったのではないでしょうか。これは全く新しいことなのでしょうか。
これは新しい問題です。なぜなら、人間の脳の回路にこれだけ多くの負荷がかかるようなことは、これまでに1度もなかったからです。確かに、肉体労働で過剰な負荷がかかることは以前にもありました。しかし、日常的に過剰な負担を脳に強いることはなかったのです。
--ADTになった人はどんな代償を支払わされるのでしょう。
まず仕事の成果が上がらなくなります。また、本来思い付いて然るべきアイデアを思い付けず、満足が得られなくなります。創造的行為から得られる充実感もなくなります。そして、前よりも表層的なレベルで生活することになります。
--この問題は組織にも影響しそうに思えますが。
まさにその通りです。ADTが深刻化すれば、組織は最も価値ある資産--つまり、従業員の脳から生み出される想像力や創造性を犠牲にすることになります。ただし、いったん問題を突き止めてしまえば、それに対処するのはそれほど難しくありません。いくつかの上限を設け、考えるための時間をとるようにすればいいのです。Warren Buffettは、ちっぽけなオフィスに座って、ただ考えることだけに多くの時間を費やしています。われわれは、考える機会を自らに与えていないだけです。
--ADTは大流行しつつあるとのことですが、具体的に労働人口の何割程度がこれにかかっていると見積もられていますか。
正式な調査をしたことがないので、あくまで推測になりますが、自分の講演の際に行っている非公式な調査の結果を踏まえてお話ししましょう。労働人口の範囲を「企業で働く管理者や幹部」と定義した場合、30〜35%、あるいは40%程度の人がADTだと思います。
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