今年3月Novellに買収されたことで日本でも身近になったLinuxディストリビューションのSUSE LINUXは、元々はドイツの会社だ。新体制となったSUSEは今年夏、いち早くカーネル2.6を取り入れたサーバOS「Novell SUSE LINUX Enterprise Server 9」を発表した。地元欧州を中心に広いユーザー層を持つ同社の製品は、このところ注目を集めているデスクトップLinux分野でも高い評価を得ている。デスクトップOSの最新版「SUSE LINUX Desktop 9」のリリースを控えた10月末、独フランクフルトでSUSE LINUX マーケティング部 メディアリレーション担当ディレクターのクリスチャン・エグレ氏に話を聞いた。
--SUSE LINUXについて教えてください。
SUSE LINUXは1992年に4人の学生が集まり、Linuxを広めることを目的に設立した会社です。Linuxの開発が始まったのが1991年のことです。当時インターネットは接続速度が遅く、アクセス環境は快適ではありませんでした。媒体はフロッピーディスクが主流で、SUSEは最新のバージョンを届けるために60枚ものフロッピーとマニュアルをセットにして発送したこともあります。
その後、インストール作業とシステム構築作業を容易にするために「YaST(Yet another Setup Tool)」を開発しました。これと同時にサポートも強化しました。現在はCD-ROMとマニュアル、90日間のサポート(電話と電子メール)をセットにして提供しており、ユーザーは自由と安心を手に入れることができます。
エンタープライズ分野では、1998年ごろから同市場向け製品とデータベースの親和性を高めるなどの準備を進め、2000年にIBMと提携してSUSE LINUXをIBMメインフレーム上で利用できるようにしました。これが今日のエンタープライズLinux成功の発端となりました。その後、この市場向けに「SUSE LINUX Enterprise Server」「SUSE LINUX Openexchange Server」などの製品も提供しています。
個人ユーザーベースでは、現在のディストリビューション販売数はバージョンごとにだいたい25万〜30万本、インストール数は約100万件あります。
--次のフロンティアと言われるデスクトップLinuxは起爆するのでしょうか。
まだ大きな成長は見られないのが事実です。この市場の成長率は、SUSEでは(新バージョンが出る)半年ごとに販売本数が約10%増加している程度です。
現在われわれがターゲットにしている市場は、技術志向の強いユーザー層で、平均的コンシューマーではありません。Windowsは家庭から企業市場に拡大しましたが、Linuxは逆の流れをたどっています。つまり、データセンターからデスクトップPCに拡大することになり、まずは企業に、それから家庭に波及すると見ています。
実際、すでにプロジェクトがいくつか進行しています。たとえばミュンヘン市は1万5000台のPCをLinuxベースに移行させる計画を明らかにしており、動向が注目されています。民間では、保険や金融などでSUSEを利用して移行を遂げた企業があります。Novell自身も社内システムをWindowsベースからオープンソースへ移行中で、現在第2フェーズの途上にあります。
移行によりメリットを受けられるのは、クライアントPCが500台以上あり、中央集権的なITシステムを持ち、アプリケーションにおける課題が少なくその数も限定されている企業です。PCの台数が多いほどメリットは大きくなるでしょう。
--課題は何ですか?
業界全体の課題といえるのは、アプリケーションの数です。現在、印刷などのアプリケーションのほとんどがWindowsベースで、これらがLinuxに対応するように変えていく必要があります。これらを評価し、オープンソースで置き換えられるものがあるか、エミュレーション可能かどうかを見ていかなければなりません。アプリケーションでは、パートナーの協力は不可欠です。
最大の課題は、マインドです。習慣を変えるというのは容易ではありません。人間というのは、変化を嫌いますから。
わたしは、Linuxの将来は非常に明るいと見ています。一度Linuxへの移行を検討した企業で、後戻りした企業はありません。現在企業のITにおける40%以上の作業は統合分野に費やされているといわれています。Linuxのメリットは、プラットフォームが1つになり、オープン性と柔軟性を手に入れられる点です。企業はどこもコストという課題を抱えています。共通した言語を1つだけ持ちたいと思っており、これを実現できるのは、全てのハードウェアアーキテクチャ上で動くLinuxとなります。
--Red Hatなど各社がデスクトップLinuxに力を入れると予想されています。Linuxベンダー間で競争は起こるのでしょうか?
デスクトップLinuxは数百種類あります。それぞれに強い分野があり、フレーバー(特徴)を持っています。この中で競争は起こるかと問われれば、答えはノーです。
業界の間には、“Unixの悲劇を繰り返さない”という暗黙の了解があります。Unixは各社が独自のフレーバーをつけた結果、互換性がなくなってしまいました。ベンダー各社はこれを繰り返してはならないという強い共通認識があり、ハードウェアメーカーからの強いプレッシャーも受けています。
ですが、製品の差別化は必要です。SUSEの強みを挙げるとすれば、管理ツールのYaST、そしてサポートです。SUSEにしろRed Hatにしろ、各社はコアの部分で同じものを扱っています。またOSDL(Open Source Development Lab)など、業界全体のイニシアティブもあります。われわれベンダーは、どちらかというと協力し合う関係にあります。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス