ゲーム業界が「The Sims」の成功を当初予想できなかったのも無理はない。
The Simsでプレイヤーが求められるのは、お決まりの手榴弾を投げたり、呪文を唱えることではない。代わりにプレイヤーは、個人の衛生状態や、インテリアデザインに夢中になることを求められる。しかし、そのような一見ごく日常的な行動を集めた同ゲームが一大センセーションを巻き起こした。オリジナルのゲームとその後に発売された拡張パックを合わせた総売上本数は4000万本に達し、コンピュータゲーム史上最も人気の高いタイトルとなった。
The Simsは、創造的なデザインやストーリー展開、さらに社会的実験などを行うための道具としても利用可能だが、このゲームの持つそんな仮想の人形の家のような側面に興味をそそられたプレイヤーたちのつくるオンラインコミュニティは、最も規模が大きくまた最も創造性に富んだものだ(ただし、The Simsの成功は、同ゲームのマルチプレイヤー版である「The Sims Online」には完全に波及しておらず、こちらはユーザー数がまばらな状態が続いている)。
コンピュータゲームにおける最初の画期的発明の1つといえる「SimCity」を開発したWill Wrightは、ゲーム販売最大手のElectronic Artsの開発部門子会社、Maxisの同僚らにThe Simsの構想を拒絶されたため、同ゲームの開発を密かに進めなければならなかった。しかし、同ゲームの続編となる「The Sims 2」は期待度も高く、開発をためらう声は皆無だった。
「『The Sims 1』の時は全く期待されていなかったので、成功は約束されていた」とWrightは語る。「しかし、成功したゲームの続編を発表するとなると、誰もが少なくとも最初の作品と同程度の成功を期待する。したがって『The Sims 2』に関しては、失敗以外ありえないような気がした。しかし、ユーザー・エクスペリエンスはかなり向上したと考えている。前作発表後4年が経過し、プレイヤーがゲームのどの部分に楽しさを感じているか、またゲームをどのように利用しているかという点について、我々は前作開発時よりもはるかに良く理解しており、それらをしっかりと『The Sims 2』の開発に生かしている」(Wright)。CNET News.comはWrightにインタビューを行い、新作ゲームなどについて話を聞いた。
--まずは前作と「The Sims 2」との相違点を教えてください。
基本的には、ゲームの中で起こり得る可能性が大幅に増えました。ユーザーは3Dエンジンを使ってSimたちの生活を拡大して見ることができるため、前作よりもはるかに深く彼らの生活に入り込むことができます。それはちょうど、部屋の中で彼らといっしょにいるような感覚です。
Simたちの性格も、前作に比べてはるかに具体化されており、彼らはまさに真の3次元キャラクターといえます。彼らには願望や記憶力がありますし、より詳細な社会的背景や、他のSimたちとの社会的関係に関する知識も持っています。彼らには戦術的目標があります。つまり、願望の設定の仕方によって異なりますが、彼らはそれぞれ、プレイヤーに達成してもらいたいと考えていることがあるのです。
新作の第一の特徴は、プレイヤーが前作よりもはるかに面白いストーリーを作り上げられる点です。ストーリーを作るのはコンピュータではなく、あくまでプレイヤー自身です。Sims 2では、コンピュータの重要イベントの認識力が向上しています。Simたちは幼児から成長し、やがて年を取って老人になります。彼らの人生に対するアプローチは、様々な局面で大きく変化します。よって、成功や失敗の仕方も千差万別です。我々がそのようにしたのは、基本的に、Simたちがまるで実在しているかのような感覚をプレイヤーがより強く味わえるようにするためです。新作では、プレイヤーは前作に比べはるかに深くSimたちに感情移入することができます。
--つまり、前作以上にユーザーの行動の結果が積み重なっていくということですね。
その通りです。新作では前作に比べ、はるかに多くの結果が積み重ねられていきます。ゲーム内の因果関係もより現実に近いものとなっています。前作に比べ、新作のSimたちは周囲の出来事、社会的関係、自分の願望の達成状況にはるかに敏感です。ある意味で、彼らには自尊心があります。それも全て、プレイヤーがキャラクターや物語や複雑な社会状況を作り上げる上で、大いに創造力を発揮できるようにするためです。
--プレイヤーが破壊する目的で物体を構築するという、いわゆる「Calvinファクター」について以前お話になりましたが、Sims 2におけるCalvinファクターとは、どのようなものでしょうか。
SimCityやその後のThe Simsで分かったことですが、プレイヤーたちはSimたちに様々な失敗をさせて楽しんでいるのです。例えばSimたちが失禁してカーペットを汚したり、失業したり、ロマンチックな雰囲気で異性に近づきながら振られてしまうなど、彼らの生活を台無しにするためのあらゆる方法を試したいと考えています。Sims 2ではSims 1に比べ、Simたちが失敗する状況が大変凝っています。そのためプレイヤーはSimたちにより深く感情移入し、Simたちが失敗するとかなりの罪悪感を覚えます。ロボットよりもペットを相手にしているような感覚です。
--だとすると、仮に私が自分のSimを虐待すると、彼はやがて、狙撃用ライフルを持って時計台に立てこもることになるのでしょうか。
必ずしもそうとは限りませんが、彼らは間違いなく正気を失います。我々は失敗の場面をよりユーモラスにしようと努力しています。しかし、ある時期が来ると、彼らには実在しない仮想の人々が見えてきます。つまり、完全に正気を失ってしまうのです。仮にSimたちに歪んだ苦難の幼児期を送らせると、彼らはそのまま歪んだ人生を歩むか、あるいは極めて特殊な恐怖症を発症する可能性があります。彼らには善悪両方の記憶があり、その記憶と関連する肯定的な連想も否定的な連想も抱き、それらを大人になるまで持ち続けます。
--このゲームには多くの心理学的知識が盛り込まれているように思われますが、Wrightさんご自身は心理学についてどの程度の知識をお持ちですか。
十分な知識を持っています。ある分野の専門家を雇って彼らにゲーム展開について説明するよりも、自分たちでその分野を研究した方がはるかに容易であることが分かりました。心理学に関しては、我々は数百の理論を考察しましたが、結局正しい理論は1つもありませんでした。それらは全て、真実のある一部分を捕えているにすぎません。そこで我々は結局、それぞれの理論の中でゲームの各部分を明確化するのに役立つ部分を拾って寄せ集めることにしました。基本的な部分にはMaslowの理論を採用し、性格面についてはほとんどMyers-Briggs Type Indicator(MBTI)を用いました。また幼児期から大人への移行についてはFreudの理論を使用しました。
心理学の理論は数多く存在し、それぞれ人間心理の特定の一面を説明しようとしています。しかし、正式な理論は1つもありません。どの理論もあなたを受け入れて、人々の行動を予測できるように各人に数字を割り当てさせたりしません。
我々はある段階で、これを正式な科学に変換しなくてはなりません。というのも、我々は人間心理をコンピュータに説明しなくてはならないからです。コンピュータは、ある人が次にどのような行動を取るかを決定するために大量の演算を行います。そこで、我々はこれらの理論をすべて混ぜ合わせますが、これをまとめているものの半分は我々の体内にあるダクトテープです。
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