「定額制はヤフーに有利」--モバイル事業を率いる川邊健太郎氏に聞く - (page 2)

インタビュー:山岸広太郎(CNET Japan編集部)
構成/文:永井美智子(CNET Japan編集部)
2004年08月20日 10時01分

--オークションの出品が携帯電話だけでできるようになったそうですね。

 そうです。これによって、文化がかなり変わると思いますよ。ポジティブな面でもネガティブな面でも。出品数が増えると思いますが、逆に極端な例で言うと、その辺りのお店にあるものを携帯電話で撮影して、高値で売れそうになったら自分で買って売るといったこともできてしまう。本当にいつでもどこでも出品できてしまうので、世界が非常に変わると思いますね。

  広告主の中には一般サイトよりも公式サイトのほうが上だというイメージを持たれているところもあります。特にナショナルクライアントに多い。しかし、定額制が広まるこれからの時代は、公式サイトでも一般サイトでも、使われるサイトが良いサイトなんだというのを広告クライアントにアピールしたいですね。そのためにも、ヤフーの携帯コンテンツが充実してきたということをまずは知ってもらいたいと思います。

--携帯のほうがPCよりもリーチが広いとも言われますね。

 ビジネスになっているという点では、PCのほうが市場規模は大きいです。携帯の場合はサービスが極端に限定されていますし、PCのように依存症になるほどにはインターネットを見ない。リーチが広いのはメールですね。メールは完全に携帯のほうが強くなっています。ユーザーへの密着度が全然違いますから。

--ヤフーにとってメールはどういう位置づけですか。

 メールは非常に戦略的なものです。これは先々の戦略の話にもからみますが、我々は携帯電話の定額制と番号ポータビリティ(MNP)が普及することを前提に考えています。

  定額制になることでユーザーはパケット代を気にしなくなりますし、何も使わないと損するような料金設定になっているので、無理矢理にでも何か使おうという気になってくるでしょう。そういう局面になると、検索を持っている、あるいは無料のサービスが多いYahoo!モバイルは非常に使われるようになってくる。

  また、MNPが導入されると通信事業者を変えても電話番号が変わってしまうというリスクはなくなるんですが、メールアドレスは変わってしまう。かっこいい端末が出るごとに事業者を乗り換えようというユーザーは「初めからメールアドレスの変わらないYahoo!メールにしておけばいいじゃないか」となる。

  そういった世界に向けて、メール機能や、もともと我々がやっていたPIM(Personal Information Manager、スケジュールや住所録などをウェブ上で管理できる)サービスの充実といったものをきちんとやっていくと、非常にお客さんに支持されるサービスになるだろうと考えています。7月にはYahoo!カレンダーとYahoo!アドレスのバージョンアップを行い、Yahoo!メールとの連動性も高めています。

--競合として意識するのはどこですか。

 1つは個別サービスごとのライバルですね。ショッピングという部門ではもちろん楽天市場がライバルですし、オークションという部門ではディー・エヌ・エーとインデックスが展開しているモバオクなどがあります。

  それからもう1つ、ポータルとしてはiMenuなど通信事業者が提供するポータルサイトがあります。かつてはiMenuかYahoo!モバイルかという選択肢を迫ること自体が不遜だったんですが、最近はユーザーも増えてきているので。

  ただ、テレビと携帯電話が融合してくると、ライバルはテレビ局かもしれない。そこは難しいところです。

--テレビ局はモバイル事業に関して積極的だと。

 そうですね。テレビ業界と携帯電話業界は資本の交流もありますから。テレビを見ているときに、隣にPCはなくても携帯電話を持っていることはある。テレビと携帯電話はマーケティング的な接点が大きいです。そこでパッケージ性の高いサービスが出てきてしまうと、それ自体がヤフーにとってはライバルになる。

--ヤフーもメディアミックスを検討しているんですか。

 メディアミックスをしていく方向もあるんでしょうが、あまりそういう状態ではないですね。インターネットに関して協力できる企業はまだたくさんあります。リクルートとの提携もありましたが、リアルでやっているものをインターネットでもやるとか、そういったところを現状では押さえようとしています。

--今後はモバイル独自のコンテンツを増やす方針ですか。それとも既存の売上を伸ばす方針でしょうか。

 基本的には、既存のビジネスモデルの強化です。PCとモバイルを合わせた全体の売り上げを伸ばしていきます。

--川邊さんはベンチャー企業からヤフーに移ったわけですが、違和感などはありませんでしたか。

 ヤフーもベンチャーですよ。意思決定の方法や考え方、基本的な戦略の取り方などはそんなに違和感はなかったですね。ただ最近は一部上場企業になって、Yahoo! BBの個人情報漏洩問題があったことで、今までやわらかすぎた社風が硬くなってきたとは思いますが。それ自体が窮屈だとは思いません。

--これからどうしようと?

 いや、面白く生きていきたいとしか考えていないですけど(笑)。我々は柔軟性に富んでいますので、どんなところでもなんとなくやっていけるんですよ。組織がどうこうというより、面白いことができるかどうかですね。だから肩書きもずっとプロデューサーのままですし。プロデューサーであればどんなことでも、どんなやり方でもできると思うので、引き続き面白くいろんなことをやっていきたいですね。釣りもしたいですし、インターネット上で一番使われる携帯サイトも作りたいですし、映画も作りたいですし。

--インターネット業界の変化は感じますか。

 インターネットのエネルギーは1994年からずっと右肩上がりです。それはYahoo! JAPANのページビューを見ていれば一目瞭然で、Yahoo! BBを始めてからはますますその角度が上がっている。インターネットで面白いことをしようとしている人間からすれば、常に面白いですよ。辛い気分になったことは全然ありません。インターネットに関して言えば常に前向き、発展的です。

  六本木ヒルズができてから、また(業界が)変わったんじゃないですか。ヤフーだけでなく、楽天やサイバード、ライブドアの本社が集まってきて、新しい交流が生まれています。

 偶然道で会って、「最近どうよ」と話をするだけでも全然違いますし。そういう意味ではたしかに去年の4月以降、また面白いことになっている気がします。熱意を持ってインターネットをやろうという雰囲気がまた生まれています。六本木ヒルズというのは功績が大きいんじゃないですかね。

  ビットバレーをやっていた1999年から2000年頃に比べると、インターネットを使う人の数が桁違いに増えていて、その分インパクトは大きいですよね。

--最近注目している技術は何かありますか。

 (京セラがDDIポケット向けに出している)Opera搭載端末は相当気になっていますね。携帯電話がよりPCに近くなる。携帯電話を根底からインターネット的に変える可能性が高い。PC用コンテンツをそのまま携帯に表示させればいいかというと、帯域の問題や表示の大きさの問題などがあって、ある程度表現を変えないといけないんですが、よりオープンになってきます。

  市場のルールや、今まで儲かってきた公式サイトなどの存在を完全に無視して破壊し尽くす可能性がある。ただ、ヤフーにとっては有利です。

  それから業界の話で言うと、サーチテリアという検索連動型広告の携帯版をやっている企業があって、かなり注目しています。たまたまヤフーの社員だった中橋義博氏などがやっている会社ですが。

--サーチテリアのサービスを導入する可能性はありますか。

 わからないですね。我々が米国で買収したOvertureとの関係がありますから。

--ドコモのiモードFeliCaはどうでしょう。

 予想は難しいですよね。みんなが「FeliCaを使いたい」というようになるかどうかはわかりませんが、おサイフケータイというのは普通に使われていくようにはなると思います。ポイントカードなどが財布にいっぱい入っているのは邪魔で面倒ですよね。そういう当たり前の理由で、当たり前に使われるようになっていくんじゃないですかね。

  Javaアプリもブームにはなっていないけれども、なんとなくみんな使うようになった。同じような感じで、iモードFeliCaも欠かせないものにはなっていくんじゃないでしょうか。

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