「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く - (page 2)

文:Daniel Terdiman(CNET News.com) 翻訳校正:尾本香里(編集部)2006年07月28日 19時14分

--Wiredの記事に書いたことがここまで大きな現象になったことについて、驚きはありましたか。

 そうですねえ。私は自己中心的な人間なので、むしろ私の他の記事が注目されなかったことに驚いていますよ。というのは冗談ですが、ただ、この理論が大きな意味を持つことは分かっていました。今の時代は、べき法則のグラフの左側の部分だけでなく右側の部分も意味を持つようになったという見方は非常に重要であると認識していました。それが、今後数十年、われわれの文化と経済の顕著な特徴になるだろうということもね。ところで、このロングテールという現象自体は私が起こしたわけでも何でもありません。

 この現象はJeff Bezos氏がAmazonを立ち上げて以来、いや場合によってはそれ以前から存在していました。ただ、テール部分の持つ重要性については注目していなかったのです。そこへ、iTunes、Netflix、Amazonなどのサービスが台頭してきたことで、テール部分が大きな効果をもたらすことが実証されました。「ロングテール」という言葉が、「ティッピングポイント」という言葉のように、明確で広く定着する言葉になっていくのかどうかは、その時点では、まだ分かりませんでしたが。

--今度出版された本の内容についてお聞かせください。Wiredのような雑誌記事では触れることができなかったアイデアが書かれているのですか。

 Wiredの記事では、DVD、書籍、音楽といったエンタテインメント市場のロングテールに着目しました。書籍では、それ以外の市場のロングテール現象に着目しています。Googleは広告業のロングテール、eBayは耐久消費財のロングテールとして見ることができます。インターネットとまったく関係のない例もあります。KitchenAid製のミキサーは、消費者の好む色のロングテールの例として見ることができます。多くの色を用意しておくと、消費者はプルダウンメニューで予想外の色を選択して、その色の商品がよく売れるという結果が出ています。昨年はタンジェリン(濃いオレンジ)が人気でした。ロングテール経済学についても1つ章を割いて説明しています。選択肢が多いほど良い結果が出る場合と、かえって逆効果になる場合とがある、といったことです。

--研究中に見いだしたことで、最も驚いたことは何ですか。

 一番驚いたのは、実は、さまざまな業界で、私が予想もしなかったロングテール現象が把握されていたことです。ロングテールというと、基本的には、多数のニッチ商品が、広範なニーズに応える量販市場向け商品に匹敵する存在になることを指します。実は、こうした現象は以前から数多く存在していたのです。たとえば、ファッション業界では、昔から、ブティックや仕立て業者が存在しています。あれは、婦人服のロングテールと考えることができます。

 食品業界でも、有機栽培食品や専門農家が手塩に掛けて育てた作物などをよく見かけるようになりましたが、あれなどもある意味、農業分野のロングテールと見ることができます。以前は、そうしたものをスーパーマーケットで購入するのは難しかった。しかし、スーパーマーケットでも、効率アップやサプライチェーン、在庫管理手法の向上により、陳列棚には、以前の倍以上の種類の品物が並ぶようになっています。Wal-Martでさえ有機栽培食品を扱うようになりました。そんなことが実現すると思っていた人はほとんどいませんでした。

--大ヒット作がかげりを見せていること、そしてテールの先っぽの方のニッチな作品がある程度の収益を上げ始めていることは、喜んでよいことなのでしょうか。

 ええ、喜ぶべきことだと思います。ヒット作品がなくなることはありません。これからもずっと存在し続けるでしょう。ただ、レコード会社と契約しないプロデューサーや音楽バンドが生み出す草の根的な現象や、YouTubeに作品をアップロードしているような、従来のテレビネットワークでは決して日の目を見ることのなかった人たちと競争しなければならなくなったということです。

 われわれが生きているこの時代の文化では、驚くような作品、大きな反響を呼ぶ作品が、まったく期待していなかったところから生まれることがあります。Arctic Monkeysのように、レコード会社との契約や取引もなく売れる音楽バンドが増えています。また、レコード会社と契約しない道を選択するトップアーティストも増えています。RadioheadのThom Yorkeもその方向を考えています。Beckもまた然りです。これは、より広い範囲から作品を選べるだけでなく、より多くの人たちが作品を制作できるようになることで、われわれの文化がより豊かなものになっていくことを示しています。

--あなたが優秀なビジネスマンだとしたら、ロングテールをどのように活用しますか。

 典型的な衰退産業である古本屋を例に説明しましょう。10年前、古本屋は大型書店の台頭で取り残されてしまいました。そして、インターネットがそれに拍車を掛けた。従来の古本屋は店の中に入っても、どんな本が置いてあるのか分かりませんでした。お目当ての本があっても、その本がどこにあるのか分からなかったし、置いていないこともありました。そんな店に将来性を見いだすのはほとんど不可能でした。

 今では、古本屋が手持ちの在庫をすべてネット上に掲載し、Alibrisなどのサービスを通して統合化を図っています。古本業は現在、書籍販売業界で最も成長している分野であり、売上げは業界全体の10%に達しています。これは業界にとってはもちろん、われわれ利用者にとっても喜ばしいことだと思います。古本が新書と同じくらい簡単に購入できるようになり、絶版になった多くの書籍が読めるようになったからです。

--新興企業はどのようにすればロングテールを活用できるのでしょうか。

 今、ビジネスチャンスの大半はアグリゲータサイト(情報収集サイト)に集中しています。アグリゲータとは、基本的に、テール部分全体を扱うサイトのことです。Amazon、Netflix、iTunesは皆、アグリゲータです。Googleもある意味ではアグリゲータです。インターネット全体をフィルタにかけ、解析して、人々が欲しい情報を見つけられるようにしているからでです。

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