2005年秋、Sebastian Thrun氏は、米国国防総省の国防高等研究事業局(DARPA)が主催した「DARPA Grand Challenge」で、「Stanford University Racing Team」を優勝に導いた。
スタンフォード大学のロボットカー「Stanley」はアメリカのモハベ砂漠を131.6マイル(約211.8km)の距離を走破した。Stanleyの平均時速は19.1マイル(約30.7km/h)で、2位のカーネギーメロン大学のチームより11分早い6時間53分でコースを走り切り、優勝した。
最近、Thrun氏はアメリカ人工知能学会(American Association for Artificial Intelligence)のフェローに選任されている。
CNET News.comでは、Thrun氏に人工知能と消費者向けロボットの未来について話を聞いた。
まだ、たくさんの問題があります。一番大きいのはコストの問題です。今の技術でも大変役に立つロボットを作ることはできますが、その値段は消費者に払えるような額ではありません。もう一つ、丈夫さの問題も残っています。ロボット工学は、大きく三つの分野に分けられます。
第一は、工業用ロボットの分野です。すでに、工場内で非常に効率よく動作するロボットアームが稼動しています。一つにつき数百万ドルの値段で、管理された環境でしか使えませんが。
第二は、専門的な用途に用いるロボットの分野です。たとえば、タイタニック号を捜索したりするなどの用途が考えられます。宇宙や軍で使われるロボットなどもそうですね。この分野では、ロボットが動作する環境に不確実な要素が増え、多様性も増します。それでもある程度の規則性はありますし、もちろん、これらのロボットも普通の人が家庭用に買えるような値段ではありません。
最後が、これは結構な数が出ていると思いますが、商用サービスロボットです。これは市場で売られています。
しかし、消費者用のロボットとなると、まだわれわれはその域には達していませんね。Roombaは正しい方向への大きな一歩だったと思いますが、消費者用ロボットの普及にはもう少し時間がかかるでしょう。
認識の確実性と、環境を理解すること、例えば家の中の環境の理解でしょうか。現在はまだロボットはキッチンに何があるかといったことを理解できませんし、例えば、人間の意図や食器洗い機の使い方も分かりません。認識の問題は大変大きく、人間が当然だと思っていることも、ロボットにとっては非常に難しい問題です。この問題は、情景認識と呼ばれます。情景認識は画像を取り込み、その画像の中の異なる物体にラベルを付けるという処理です。これは4歳児でもできることですが、ロボットにはまだうまくできません。家の中の環境でものを動かそうと思ったら、まずその物体を認識しなくてはならないわけですから、これは大きな課題です。
もう一つ、まだできていないことを挙げるとすれば、物体操作の問題でしょう。ロボットのナビゲーションの分野は、大きな進歩を遂げています。例えばRoombaは平面に落ちているゴミを取るようにナビゲーションされているロボットです。しかし、ロボットの腕を使って何か面白いことをやるというようなものは出ていません。物体を動かすという研究分野は、現時点ではまだ生まれたての状態だと言っていいでしょう。この物体操作も、大きな人工知能分野の課題です。
掃除の分野は確実に出てくるでしょう。掃除ロボットに、家の中でものを運び回るための腕を付けたいですね。パーティの後片付けをしてもらったりとかね。それから、家庭内で高齢者介護に利用されるロボットが出てくると思います。これにはいくつかの形が考えられます。ロボットは医療関係者が用いる機器になるだけかも知れませんし、家族や親戚がロボットを通じて高齢者とコミュニケーションをしたりするようになるかも知れません。
例えば、祖母のアパートのストーブが消えているか、窓が閉まっているかを確かめたいと思うかも知れません。インターネット経由でロボットにログインしてそういうことを確かめたり、冷蔵庫が閉まっていることを確認したりできたらいいと思いませんか。社会的なコミュニケーションの研究分野の中には、日本で模索されているような、ロボットが人間の相手をいかに務めるかという課題もあります。私は人間のコミュニケーションが、将来、人間対ロボットのものになることに奇妙な感じを持っているので、これについてはためらいもあるのですが・・・。しかし、アメリカでは高齢者介護の問題がすでに悲惨な状況になってしまっていますから、ロボットの方がテレビの代わりとしてはましかも知れません。
それから、もちろん最後の答えは、私が今夢中で取り組んでいる自動運転の自動車です。これは、この分野を根本的に変える可能性があります。技術的にも現実的ですし、値段としても現実的です。
自動運転の車を目指せば、自然と安全な車を目指すことになりますよ。私は自動車業界の方と話す際、よく自動運転の車はドライバーに対する究極の補助になると言っています。自動運転と安全性は互いに無関係ではないのです。実際、私が取り組んでいる自動運転の車の技術が、今すぐ市場に受け入れられるとは思っていません。この技術は、ドライバーシステムに次々と組み込まれる形で市場に出て行くことになると思います。システムの能力がどんどん高まっていくうち、ある時、われわれは自動運転できる車を手にしていることに気づくでしょう。
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