最終更新時刻:2008年7月7日(月) 11時00分

創業社長が明かす、仮想歌手「初音ミク」にかける想い

島田昇(編集部)

2007/10/23 14:28  

 歌を歌うコンピュータ、仮想歌手「初音ミク」が注目されている。

 音楽制作ソフトである「初音ミク」は、発売後2カ月弱で音楽制作ソフトとしては異例の1万5000本を販売。民間企業の調査によれば、音楽制作ソフトの販売数量シェアで6割を超えるという状況だ。

 限りなく人の歌声に近いという商品としての質の高さに加え、これを使った楽曲が日々ネット上で発表され注目を集めていることも、新たなネット活用の可能性を示した事例として話題を集めている。

 ただ、この仮想歌手という存在には賛否両論あり、一部の報道機関では誹謗中傷とも受け止められる番組を放送。「初音ミク」の利用者やそれを支持する人たちからの反発を招いた。

 仮想歌手はどのような経緯で生まれ、何を目指しているのか。また、この商品を生み出した経営者像とは――。クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役である伊藤博之氏に、「初音ミク」にかける想いを聞いた。

自分の作品を世界の人たちに聞いてもらいたい

--起業するまでの経緯について教えて下さい。

 大学卒業後、6年ほど勤務した大学の職員を経て、1995年にクリプトン・フューチャー・メディアを設立しました。

 一言で言うと、当社は「音」に関する商品を扱う会社です。

 わたしはもともと、学生時代からコンピュータミュージックに興味があり、自分で音や曲を作っては友人たちに聞いてもらうというようなことをしていました。しかし、それでは聞いてもらえる人たちが限定されてしまうので、「何か物足りない」と常々感じていた状況だったんです。

 そんな時にたまたま書店で、欧米のレコーディング系雑誌では自主制作した音や楽曲の個人広告が出稿されているということを知りました。別にこれを見てビジネスの着想を得たというわけではありません。ただ単純に、「これであれば自分が作ったものをさまざまな人たちに聞いてもらえる」と感じ、「自分もやってみよう」と思ったんです。

 実際に始めてみると、数は少ないのですが、世界中から「この音を使ってみたい」という手紙ベースの注文を受けるようになりました。また逆に、「日本で自分の作った音を売ってもらいたい」というような提案も来るようになり、その提案に軽い気持ちでのってみたのですが、これが思いのほかうまくいきました。

 その後、大学の職員が堂々と副業をしているわけにもいかないですし、一度始めたことを途中で放り投げる気にもなれなかったので、会社を設立しようと決断しました。コンピュータミュージックが大きく進化を遂げている時期でもあったので、純粋に「やってみたい」という気持ちも強かったです。

--設立当初はどのような事業を展開されていたのですか。

 ギターやドラムなど楽器の音、テレビや映画で使う効果音の素材を多数まとめたCDを販売しました。これは需要が限られていて、ニッチなマーケットです。しかし、2000年くらいの段階で海外を含めたネットワークから50〜60万件の素材を集めて蓄積し、お客様の注文内容に対して即座に回答するための社内検索エンジンを開発して導入するなど「音の素材ではどこにも負けない」というポリシーで事業展開していきました。

 ただ、これだけではマーケットが小さいので、広く一般のBtoCビジネスも手がけたいと考えていたところ、ネット接続機能を搭載した携帯電話が登場してきました。ここであれば「音」を生かしたBtoC展開が可能だろうと考え、2001年頃から「着メロ」のように音の素材を配信して着信音などに使ってもらうというビジネスを開始しました。

 現時点で3キャリアの公式サイトに対応しており、利用者は約30万人で売り上げの半分程度を占めるビジネスへと成長しました。

歌を歌うコンピュータ

--話題の音楽ソフト「初音ミク」に至る経緯を教えて下さい。

 2000年頃からさまざまな音をコンピュータ上で演奏処理するソフト「ヴァーチャル・インストゥルメント」の技術が発展していきました。すでに「映画で流れるある楽器の演奏に感動した」と思ったとき、それは人が演奏したものではなく、コンピュータが演奏したものかもしれないというレベルにまできています。

 こうしたソフトが注目され、音楽業界関係者に浸透していく中で、ヴァーチャル・インストゥルメントのソフトを自社で開発したり、海外から輸入してきて販売する、というビジネスも開始しました。

 しかし、音というのは楽器などの音や効果音だけではなく、人の声というのも音です。ですから、コンピュータ上で楽器演奏させることができるのであれば、歌を歌わせることもコンピュータ上でできるのではないかと。

 そう考えているときに、ヤマハがそれを実現させるためのエンジン「VOCALOID」の技術開発を始めていました。それをベースに、人の声を録音してさまざまな調整を加えたデータベース構築を経て、ヴァーチャル・シンガーとなる「MEIKO」を2004年11月に発売しました。

 ただ、人間というのは人の声に敏感で、たとえ音の波形は人とコンピュータが同じであっても、違和感を感じてしまうほどシビアなセンサーを持っています。ですから、「MEIKO」のときはまだ機械っぽさが指摘される面もありましたが、それでもコンピュータミュージックとしてはヒット商品と言える約4000個を販売しました。

 この経験を通じ、人が聞いても可能な限り違和感を感じないように調整したのが、ヤマハが2007年1月に完成させた「VOCALOID2」であり、そのエンジンを使ったのが「初音ミク」となります。

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